治験の二重盲検法(Double blind test)と標本抽出法(sampling method):2
前回の記事では、標本抽出法では『検査者の意図・恣意』をできるだけ交えずに、母集団からサンプル(標本)を無作為抽出することが望ましいという話をしたが、この検査者や被検者の意図をできるだけ交えないほうが正確な結果を得られるという考え方は『治験』にもある。
『治験(治療のための臨床検査)』は法律的な定義では、医薬品や医療機器の製造販売に関してその有効性と安全性を確認し、薬事法上の承認を得るために行われる臨床試験のことである。簡単に言えば、インフォームド・コンセント(適正な情報提供をした上での同意)を得た実際の患者(人間)を対象として、薬剤や治療法、医療機器の有効性・安全性を調べるための臨床試験のことを『治験』と呼んでいる。
新薬の許認可に必要なデータを提供する治験は、一般的に第I相から第IV相までの4段階に分けて進められる事になっている。本格的な二重盲検比較臨床試験を実施する場合には、かなり長い年月や大きな経済コストが掛かる事になるが、新薬(被験薬)の効果と安全性を確実に調べるために、厳密かつ複雑な手順を踏むものになっている。
第T相試験(フェーズT)
治験の被験者は、強制されていない自由意思に基づいて志願した健康な成人を対象とするものであり、治験に当たっては必ずインフォームド・コンセント(十分な情報提供に基づく同意)を取っていなければならない。フェーズTは動物実験で安全性が確認された薬剤を用いて、その薬の薬物動態(吸収分布・代謝・排泄)や安全性・副作用(リスク)について大まかに把握する『探索的試験』の段階である。
第U相試験(フェーズU)
フェーズUは、比較的症状の軽い患者を対象にして、『有効性・安全性・薬物動態』などの探索と検討を行う段階である。特に有効性と安全性に最大限の配慮をしながら徐々に投与量を増加させて『用法・用量の検討』を行うことが主要な目的になっている。プラセボ群を含む3群以上の用量群を設定して、『用量に対する各群の反応性』を検討したりもする。治験薬に関する探索と検証を同時的に進める事が多いが、試験デザインには多様なバリエーションがあり、『探索的な前期フェーズU』と『検証的な後期フェーズU』を分割するような試験デザインも多く見られる。
第V相試験(フェーズV)
実際にその新薬を必要とするであろう病気の患者を対象にして、『有効性・安全性の検討』を行う段階がフェーズVであり、より大規模な患者群を対象にした治験薬の投与が行われる。健常者を対象とした『フェーズT』と軽症患者を対象にした『フェーズU』で確認されてきた治験薬のデータと有効性、安全性が、実際にその薬を必要とする患者にもそのまま通用するのかを確認する重要なフェーズとなる。二重盲検比較臨床試験の試験デザインが採用されることが多い。
新薬の製造販売承認申請
フェーズTからフェーズVまでのデータベースと試験成績を整理して、医薬品の製造販売承認申請を厚生労働省に対して行うことになる。規制当局は厚労省管轄の医薬品医療機器総合機構であり、この公的機関の審査を受けて承認されれば医薬品としての販売が認可されることになる。
第W相試験(フェーズW)
フェーズWは『製造販売後臨床試験』と呼ばれる段階であり、市販直後調査及び市販後調査によって実施されることになる。実際に市販した後で、新薬を服用した患者のデータベースを作成して、フェーズVまでの治験で検出できなかった副作用やリスク、有害事象を早期に発見することが目的である。