AAトレーニング(autogenic abreaction training)と自律訓練法:2
自律訓練法は、精神運動抑制の抑うつ状態や無気力、気分の落ち込みに対しても、重度でなければある程度の改善効果が見られることがある。また、精神的に落ち着かずにイライラしている人、強い精神的ストレスによって「胃潰瘍・十二指腸潰瘍・蕁麻疹・頭痛・腹痛・吐き気・めまい・パニック発作」などの心身症の症状に苦しんでいる人にも、自律訓練法が良い作用をもたらすことが少なくない。
前述したように、自律訓練法は「背景公式+6つの基本公式」の習得によって、自己催眠に特有な心理状態である「自律性状態」を作り上げて治療効果や疲労回復効果を得ようとするものである。
自律性心理状態を得る為には、まず「受動的注意集中」の感覚を身につけなければならない。「受動的注意集中」とは、意識的に身体や内面に注意を向ける「能動的注意集中」と反対の意識の集中法であり、何となくぼんやりとした心理状態で身体や内面に意識を向ける方法である。受動的注意集中を行っている間は、自我の覚醒水準が低下して、何となく眠たいような霞がかった意識状態になることがある。
自律訓練法は、軽く目を閉じたリラックスした状態で行い、以下の背景公式と6つの基本公式を心の中で静かに繰り返し唱えることで自己催眠へと誘導していく。創始者であるシュルツは、自律訓練法が有効に機能する「自律性状態」を確立する為には、「四肢重感練習」と「四肢温感練習」のしっかりとした体得が重要だと考えた。何故なら、自律訓練法の作用機序の根幹は、「言語的暗示の具体的内容」ではなく「言語的暗示による心身の弛緩(リラクセーション)」にあるからである。
背景公式(基本的なリラックスの練習)……「気持ちがとても落ち着いている」
第1公式(四肢重感練習)……「両腕・両脚が重たい」
第2公式(四肢温感練習)……「両腕・両脚が温かい」
第3公式(心臓調整練習)……「心臓が静かに規則正しく(自然に)打っている」
第4公式(呼吸調整練習)……「楽に(自然に)呼吸している。呼吸が楽だ」
第5公式(腹部温感練習)……「お腹が温かい」
第6公式(額部涼感練習)……「額が(心地良く)涼しい」
フロイトが創始した古典的な精神分析療法では、自分が認めたくない欲求や感情を無意識に抑圧することによって、抑圧された激しい感情的葛藤が各種のヒステリー症状(神経症症状)に転換すると考えられていた。その抑圧された感情や欲求を単純に解放することを「アブリアクション(abreaction, 情動解放)」といい、効果的な心理面接構造やカウンセリング技法によってアブリアクションに治療効果が伴う現象を「カタルシス(catharsis, 感情浄化)」という。
カナダの心理学者(生理心理学の研究者)であったヴォルフガング・ルーテ(Wolfgang Luthe)は、自律訓練法によって形成される「自律性状態」と情動解放の「アブリアクション」の相互作用を活用した「自律性除反応(autogenic abreaction)」を考案した。ルーテは人間の脳には、心身の正常状態(ホメオスタシス)を保持する「中心脳保安解放系(現在の交感神経系と副交感神経系)」があり、自律訓練法で形成される自律性状態は、この「中心脳保安解放系」が正常に作用している状態だと考えていた。
ルーテは、内面に抑圧されて鬱積した激しい情動や強い願望が、各種の精神疾患(精神病や神経症)の原因となると見ていたので、リラックスした受動的な脳の状態(自律性状態)に、アブリアクションの情動解放を組み合わせることで心身の健康を維持できると主張したのである。
自律訓練法の技法にアブリアクションの原理を組み合わせたルーテの自己催眠的技法を「AAトレーニング(autogenic abreaction training)」といい、正式なAAトレーニングではトレーニング中に感じたことや思ったこと、甦ってきた記憶などの全てを言語化して録音し、それをノートに書き写していく作業をする。
生理心理学者で自己催眠的な技法を熱心に研究したルーテは、自律性除反応によって生じた自分の心身の反応の全てを記録して明確化(意識化)することを重視した。それは、精神疾患や心身症の原因となる「抑圧された感情のエネルギー」を解放する為に、「自己の心理状態や身体感覚への気づきと言語化」が必要であると考えられていたためである。
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