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2006年09月17日

[エコロジカル・アプローチ(ecological approach)とエルンスト・ヘッケルの反復説]

エコロジカル・アプローチ(ecological approach)とエルンスト・ヘッケルの反復説

エコロジー(ecology)は、『自然環境保護の学問や思想』という通俗的な用語としても知られるが、学術的には『生態学(ecology)』の意味で用いられる。進化生物学を肯定するダーウィニストであったエルンスト・ヘッケル(Ernst Haeckel, 1834-1919)が1866年に提唱した生態学(ecology)とは、生体と環境との相互作用を調査研究する生物科学である。

カウンセリングや心理療法、ソーシャル・ワークなどの対人援助分野で、エコロジカル・アプローチを行う場合には、クライエントの個人要因(性格・気質・病理・人間関係・成育歴)に環境要因がどのような影響を与えているのかを分析して、クライエントの環境調整と対人関係の調整を積極的に推し進めていく。

エコロジカル・アプローチの根底には、人間の心理的問題や精神疾患が、個人要因と環境要因の相互作用によって形成されるという生態学的な人間観がある。つまり、人間の行動や人格を変容させる為には、クライエント本人の内面に共感的にアプローチするだけでなく、クライエントを取り巻く社会環境や家庭環境を改善するためにアプローチしていく必要があるのである。

チャールズ・ダーウィンの進化論を人口に膾炙するのに貢献した医師のエルンスト・ヘッケルは、人間の精神機能や心的過程を研究する心理学を広義の生理学・生物学の一分野として位置づけた哲学者としても知られる。進化生物学の発生学や解剖学の分野におけるヘッケルの功績として、『個体発生は、系統発生を繰り返す』というフレーズで有名な『反復説』があるが、この反復説は後の研究によって、科学的に完全に正しいとは言えないのではないかという批判がある。

反復説というのは、簡単に言えば『個体の発生は、過去の生物進化の道筋を辿って行われる』というものである。即ち、哺乳類の個体(胚・胎児)の誕生は、過去の脊椎動物の進化過程である『魚類→両生類→爬虫類→哺乳類』という道筋を辿って行われるという説が『ヘッケルの反復説』である。実際の観察事例を見てみると、哺乳類の生物種の胚・胎児の間に一定の共通性や類似性が見られるものの、正確に過去の進化の過程を繰り返しているわけではない。

ヘッケルは自分の反復説の根拠を強化する為に、意図的に胎児の図を他の生物種に似せて歪曲したり、論文データの捏造の疑惑を掛けられたりしたので、一時期『反復説』の信憑性が大きく疑われた。しかし、生命の発生段階において、『簡略化・省略化された形』で進化の過程が再現されていることは確かであり、『反復説』は大枠において正しいと言って良いだろう。

受精卵を単細胞生物と見なせば、卵割によって細胞が増殖していく過程は多細胞生物への進化と見なすことが出来るし、ヒトの胎児に見られる『鰓列の形成』から『鰓列の消失』までの発生過程は、『無顎類の鰓列→魚類の鰭獲得→両生類の鰭消失』という進化過程に対応していると解釈することが出来る。

生物科学の下位分野である生態学(ecology)が研究対象とするのは、『生物個体』『生物集団』『自然環境』でありその三者の相互作用であるが、臨床心理学や社会福祉分野におけるエコロジカル・アプローチでは、『人間個人(クライエント)』『個人が帰属する集団』『個人と集団を取り巻く環境条件』を対象としてシステム調整(家族療法的なシステム・アプローチ)を行っていく事となる。

簡潔にまとめれば、エコロジカル・アプローチのカウンセリングとは、個人の心理的援助と生活環境の調整、対人関係の解決を同時進行的に推し進めていく『多面的アプローチ』ということができる。

ラベル:心理療法
posted by ESDV Words Labo at 16:57 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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