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2011年12月14日

[ファザリング(fathering)・マザリング(mothering)とイクメンの子育て:1]

ファザリング(fathering)・マザリング(mothering)とイクメンの子育て:1

従来の発達心理学や家族療法の“育児”の項目では、近代社会(男性中心社会)のジェンダーの影響を受けていることもあり、育児の主体を『母親・女性』に置いてきた。乳幼児の心身の健全な発達に必要なのは、何よりも授乳をする母親(女性)の『無条件の愛情・関心・スキンシップ』であり、母親の保護や愛情が与えられない『母性剥奪(mother deprivation)』が起こると、各種の情緒障害・発達障害(発育障害)のリスクが格段に高くなると考えられてきた。

母親の母性的な育児行動や役割、愛情の付与、心理的ケアのことを『マザリング(mothering)』といい、父親の父性的な育児行動や役割、社会化の促進、心理的ケアのことを『ファザリング(fathering)』というが、発達心理学ではファザリングについての研究の数はマザリングと比べると圧倒的に少ないのが現状である。男女共同参画社会の推進や女性の就労率の向上などの時代的変化はあっても、『男性は仕事・女性は家事育児』という伝統ジェンダーの影響は今でも強く、子どもが産まれればフルタイムで働いている女性であっても育児の中心は母親になることのほうが多い。

仕事と家庭・育児の両立で悩んでいる女性は多いし、『母親・妻・会社員(社会人)』といった多重役割(マルチロール)の規範や負担はどうしても働いている女性のほうが大きくなりやすい状況にある。現在では男女平等主義や家庭の役割分担、マスメディアの影響もあり、若い世代を中心にして『イクメン』と呼ばれる育児をする父親・男性も増えているが、慣れていないイクメンの育児行動は中途半端な協力に終わることが多く、かえって母親の仕事や手間を増やすという不満が出されることもある。イクメンのムーブメントそのものは、『ファザリングの肯定的な影響・男性の積極的な育児参加・妻への協力支援』の点で非常に好ましいものだが、『自分が手伝える育児行動・最後までしっかりとやり終える育児協力』を工夫していくことで、更に夫婦関係・親子関係の親密さや信頼感が深まっていくことになるだろう。

メラニー・クラインの母親(乳房)との内的な対象関係や原始的防衛機制を前提にした『乳幼児発達理論』にしても、マーガレット・マーラーの母子の自閉段階や共生段階を考えた『分離‐個体化理論』にしても、発達早期の母子関係の愛着とそこからの分離をテーマにしたものである。それらの早期発達理論や育児上の重要なポイントには、『父親(男性)の存在』は全く介在しておらず、『母子関係の親密な正常性・母親の包み込むような無償の愛情』が子どもの心身発達にとって大切であるという事が示唆されている。

ルネ・スピッツジョン・ボウルビーの孤児院(乳児院)を対象にした調査研究でも、児童養護施設の栄養状態や衛生管理状況とは無関係に、『母性的養育・ケアの欠如(=母性剥奪)』によって『施設病(ホスピタリズム)』と呼ばれる発育障害・健康悪化が見られるとされている。

この施設病(ホスピタリズム)の疾病概念も、児童養護施設で育てられた乳幼児が『母親との愛着(アタッチメント)』を形成する機会がないために自己対象(重要な特定の他者イメージ)を築けず、『他者への基本的信頼感』を獲得できずに無力感・絶望感を感じるという『母性中心の概念』になっている。

施設病(ホスピタリズム)が発症すると乳幼児の死亡率・病気の発症率が有意に高くなり、免疫機能・抵抗力も低下して感染症に罹患しやすくなるので、『母性的なケア・養育・愛情』が乳幼児にとって必須のものであることは疑いがない。しかし、男性主義的な近代社会では、育児の役割行動・子どもへの愛情をあまりに母親(女性)だけに当てはめすぎてきたために、家庭における『父性の欠如・男性の不在』の弊害も大きくなっているとされる。



posted by ESDV Words Labo at 07:37 | TrackBack(0) | ふ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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