不安(anxiety)と不安階層表(anxiety hierarchy):2
この記事は、[前回の項目]の続きになっています。社交不安障害(社会不安障害)というのは、かつて対人恐怖症と呼ばれていた精神疾患であり、他人とコミュニケーションをする『対人場面』や他人から自分の言動を見られている『社会的状況』において、異常に強い不安・緊張を感じてしまうというものである。
誰でも初対面の人と話したり大勢の人の前で演説したり板書したりする時には『一定の緊張・不安』を感じるものだが、社交不安障害(社会不安障害)では『上がり症・緊張しやすさ』だけでは説明しきれないほどの強い緊張・不安を感じて、赤面してまったく言葉が出てこなくなったり、手足が振るえて大量発汗をしたりする。
社交不安障害(社会不安障害)の人の自己否定的な認知(物事の捉え方)の特徴は、『自分が相手からバカにされるかもしれない・大きな失敗をして恥をかくかもしれない』という自信の低さであり、相手から否定や侮辱、非難されることを無意識的に恐れてしまって非常に強い緊張と不安に襲われてしまうのである。『不安』を中核症状とする各種の不安障害に胸痛する症状として、『動悸(心臓のドキドキ)・呼吸困難(息苦しさ)・大量発汗・手足の振るえ・頭痛腹痛・消化器症状』などの生理学的症状(自律神経失調症的な症状)がある点にも注意が必要である。特に精神病理学的な不安症状においては、これらの生理学的症状が必ず見られるとされている。
パニック障害・社交不安障害(対人恐怖症)などの不安障害に対しては、南アフリカの精神科医のW.ウォルピが考案した『系統的脱感作法』という行動療法が実施されることがある。系統的脱感作法とは『弱い不安を感じる刺激』から段階的に『強い不安を感じる刺激』を与えていくことで、不安を感じる対象や状況にクライアントを適応させていくという方法であり、系統的脱感作法を実施する場合には『不安階層表』という不安の強さを順番に分類した一覧表を用いる。
『不安階層表』では“最も不安が強い状況(対象)”から“最も不安が弱い状況(対象)”を並べて表を作成するが、そこでは最も強い不安を“100点”、最も弱い不安を“0点”とするような『主観的不安単位(SUD)』というものが用いられる。例えば、社交不安障害において不安階層表の主観的不安単位を作るとすると、以下のような感じになってくる。
100点……大勢の人の前で演説・発表をすること。
80点……知らない人に話しかけてコミュニケーションすること。
60点……大勢の人の前で板書をしたりプリントを配ったりすること。
40点……クラスメイトの前で自分の意見や主張を話すこと。
20点……お店の人にメニューや商品を注文すること。
0点……親しい友人とおしゃべりをすること。
不安階層表はカウンセラーとクライアントの間で話し合いながら段階的に作成していくものだが、『不安の強度の順番の並べ方に意識を払うこと』と『前の階層の不安状況と後の階層の不安状況の落差を小さくすること』がカウンセリング(系統的脱感作法)の効果を高める上で大切である。