不安性格(anxious personality)
不安を絶えず感じやすくストレスに対して脆弱性を持つ人格構造のことを『不安性格(anxious personality)』というが、不安性格は不安神経症の病前性格と考えられてきた。S.フロイトの精神分析では神経症を発症しやすい病前性格を総称して『神経症的性格』と呼んだが、不安性格というのも神経症的性格の一種であり、『慢性的に不安感情を感じやすい性格構造・認知傾向・自己評価』という特徴を持っている。
不安性格の形成過程では、乳幼児期〜思春期に両親から十分な愛情・保護を与えられなかったり、学校でクラスメイトからいじめや仲間はずれをされたりといったトラウマティックな体験が見られることが多く、そのトラウマ(心的外傷)の影響によって『自尊心の傷つき・自己評価の低下』が起こりやすくなっている。不安性格はその性格形成過程において、何らかのトラウマティックな体験をしていることが多く、その結果として『自分の行動・発言・選択・能力』などに対する自信・確信を持てなくなり、慢性的な不安に襲われやすくなると考えられている。
『現実的な危険状況・差し迫っている恐怖の対象』があるわけでもないのに、絶えず不安を感じやすいというのが不安性格の最大の特徴であるが、精神科医のC.D.スピールバーガー(C.D.Spielberger)は現実的な状況と関係なく性格的な要因によって発生する不安のことを『特性不安』と呼んだ。自尊心の欠如や自己評価の低下、認知の歪みといった性格構造に基づいて発生する不安が『特性不安』だが、それに対して、現実的な危険や恐怖、ストレスなどに反応して発生する一般的な不安のことを『状態不安』と呼んだ。
不安性格は、自我の形成過程の障害であり、自己否定的・悲観的な認知の歪みを伴うことが多いが、自分で自分の行動・発言の効果的な影響力を信用することができない『自己不確実感(自分には有効な能力・影響力がないという感覚)』も深く関係していると推測されている。自分で自分の言動の効果を信頼することができない“自己不確実感”には、自分に自信を失って何も行動ができなくなる『制縛型』と外部の小さな刺激や些細な出来事にも敏感に強い不安を感じてしまう『敏感型』とがある。