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2006年10月09日

[ダグラス・マクレガーの『X-Y理論』が示唆する経済効率性と労働モチベーションの高め方]

ダグラス・マクレガーの『X-Y理論』が示唆する経済効率性と労働モチベーションの高め方

アメリカの心理学者ダグラス・マクレガー(Douglas McGregor, 1906-1964)が、著書『企業の人間的側面』の中で提起した経営心理学的な理論が「X-Y理論」である。ダグラス・マクレガーの生まれた重化学工業中心の産業時代において、経済界の経営者たちに共通する悩みは、『従業員の労働意欲(意欲・興味)や職業能力(専門知識・熟練を要する技術)を如何にして高めることができるか?』という問題であった。

マクレガーのいう「X理論」とは、『人間は本来怠け者で、責任感がないので、強制しないと仕事をしない』という性悪説的な人間観に根ざすもので、従業員(労働者)を積極的に働かせて生産性と効率性を高める為には、オペラント条件付け(道具的条件付け)的な報酬と罰則の強化子(刺激)が必要であるというものである。

従来の経営理論や行動科学(行動主義心理学)では性悪説を前提とする「X理論」が主流であり、経営者や管理職は従業員(部下)に対して『権限に基づく適切な命令(強制)』を与えることが重要な職務であるとされていた。つまり、良く働く従業員には報酬(給料の賃上げ)を与え、怠けて働く従業員には罰則(給料の賃下げやリストラ・解雇)を与えることで、従業員は労働意欲を高めることができ、仕事へのモチベーションを維持することが出来るというのがX理論である。

企業内部の階層秩序に基づく命令統制と賞罰を与える権限行使によってのみ、業務(仕事)の生産効率性を上げることができると考えるX理論の欠点は、単純労働や肉体労働以外の主体的な思考活動(試行錯誤・創意工夫)を必要とする知識労働(複雑な作業や思考を必要とする創造的な仕事)に応用できないことである。また、産業心理学のホーソン工場の実験でも明らかなように、人間の労働モチベーションの高低は、報酬や罰則の大小のみによって規定されるのではなく、快適な職場環境や良好な職場の人間関係に大きく左右される。人間は、賃金というパンのみによって働くのではないのであり、自己アイデンティティ確立の為の仕事や社会貢献の為の労働には『自分が働く意義』に対する納得が必要となってくる。

上司から部下への命令統制や企業の階層関係における権限の行使によって、従業員(労働者)の労働意欲を高め生産効率性を上昇させようとするX理論の短所と限界を乗り越えようとする理論が、マクレガーが考案した『Y理論』である。Y理論は、『人間は本来、怠け者ではなく働き者であり、旺盛な知的好奇心と自己実現欲求を持つので、やりがいのある職場環境(人間関係)と達成目標さえ与えられれば積極的に働く』という性善説的な人間観を前提としている。

マクレガーは、人間には生得的に何かを創造(生産)したいという欲求が備わっており、罰則や権限の行使によって労働(仕事)を無理やりに強制されると、反対に仕事に対するやる気や興味を失って生産性(効率性)が停滞すると考えた。限定された期間で、主体性や積極性をそれほど必要としない単純な肉体労働の人事管理では、アメとムチの統制であるX理論にも有効な部分があるが、自分の頭で考えて『問題解決・目標達成』を行っていく種類の仕事では、人間の主体性を尊重するY理論が有効である。

マクレガーは、未来の経営理論(組織論・人事管理・企業運営)では、外部から強制的な命令を下して『統制による管理』を行うX理論の有効性は大きく低下し、内発的な動機付けを重視して『目標による管理』を行うY理論の有効性が段階的に上昇すると主張した。無論、全ての職業や業務内容、人事管理においてY理論がX理論よりも優れているわけではなく、機械的な労働の反復や創意工夫が不要な仕事では、X理論に基づく企業経営が生産性を高めることもある。

Y理論の長所が最大限に発揮されやすい産業分野は、『創意工夫・試行錯誤・頭脳労働・計画管理』を日常的に必要とする分野であり、Y理論の適用が効率性を発揮する人材とは、『承認欲求・自己実現欲求・知的好奇心・社会的責任感』がある程度強い人材である。主体的な責任感を持って仕事に取り組み、自分で自分のやるべき仕事の達成目標を設定して、その目標に向けてコツコツと意欲的に努力する従業員(労働者)の場合には、X理論に基づく『統制・強制・命令での管理』は生産性を低下させるので、Y理論に基づく『目標・共感・仕事の内容での管理』を適用すべきである。

ダグラス・マクレガーのX-Y理論を、現実の企業経営や人事評価・組織管理に結びつけることはなかなか難しい行為になるが、『アブラハム・マスローの欲求階層説』を参考にして、従業員(労働者)の承認欲求や自己実現欲求を満たすことで労働意欲を高めるようにすると良い。X理論を基にした賃金や賞賛というオペラント条件付けの統制だけでは、高度な知識労働や商品開発、情報管理、人事評価を行う従業員のモチベーションを十分に高めることは出来ない。各部門における優秀な人材の労働力を最大限有効に働かせるためには、『仕事そのものへの好奇心や興味』という動因(モチベーション)を内発的に高める必要がある。そこで、上司は『積極性・自主性・自律性』を引き出す方向を大切にして、Y理論の示唆する『目標による管理』を行わなければならないのである。



ラベル:経営学 心理学
posted by ESDV Words Labo at 11:19 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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