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2006年10月09日

[エソロジー(動物行動学)の代表的研究者:ニコ・ティンバーゲンとコンラッド・ローレンツ]

エソロジー(動物行動学)の代表的研究者:ニコ・ティンバーゲンとコンラッド・ローレンツ

エソロジーは、動物の行動・生態の観察を比較研究することによって、動物の行動の持つ意味や本質に接近しようとする学問であるが、エソロジーの基本命題は『動物・人間は、なぜ、そのような行動を取るのか?』という疑問に集約することが出来る。エソロジーの研究対象となる動物は、近代的な生物の分類法を考案した博物学者カール・フォン・リンネ(Carl von Linne, 1707-1788)の分類に従うと、動物界に分類されるものの大半であるが、一般的には脊椎動物や節足動物(昆虫)を対象とした研究が多い。

リンネの近代的な生物分類の枠組みは、『界(Kingdom)・門(Phylum/Division)・綱(Class)・目(Order)・科(Family)・属(Genus)・種(Species)』であり、全ての生物をこの枠組みに従って分類することが可能となっている。エソロジー(動物行動学)分野の進歩発展に尽力した代表的な研究者として、オランダのニコ・ティンバーゲンとオーストリアのコンラッド・ローレンツという研究者がいる。ここでは、ティンバーゲンとローレンツの主要な研究内容と代表理論だけを簡潔に説明しておきたいと思う。

ニコ・ティンバーゲン(Nikolaas Tinbergen, 1907-1988)は、著書『本能の研究』の中で『なぜ、動物はそのような行動をするのか?』について、エソロジーには4つの研究アプローチがあると言っている。それは以下の4つの研究アプローチであり、これを『ティンバーゲンの4つの問い』と呼んでいる。

1.どのような生理学的機序(刺激−反応)によって行動が生起するのか?=生理学的アプローチ(至近要因)

2.どのように行動が発達(変化)するのか?=発達論的アプローチ(個体発生要因)

3.その行動にどのような意味(目的)や効果(機能)があるのか?=適応的アプローチ(究極要因)

4.どのような進化過程を経てその行動が形成されたのか?=進化論的アプローチ(系統発生要因)

オランダの動物行動学者ニコ・ティンバーゲンは、1973年に、コンラッド・ローレンツとカール・フォン・フリッシュと共にノーベル医学生理学賞を受賞したが、兄のヤン・ティンバーゲンもノーベル経済学賞の初代受賞者としてその名を知られている。

カール・フォン・フリッシュは、ミツバチが示すコミュニケーション行動である『8の字ダンス』の発見で知られる。ミツバチは餌場の場所の距離をおおまかに仲間に伝達する為に、餌場が近ければ『円形ダンス』を行い、餌場が遠ければ『8の字ダンス』を行っている。ミツバチは意図的に思考して8の字ダンスで餌場の方角を教えているわけではないが、遺伝形質による本能行動として8の字ダンスを行い、『太陽の方向』と『餌場の方向』の角度を仲間のミツバチに効果的に伝達することに成功しているのである。

ニコ・ティンバーゲンが発見した最も重要な動物行動は、イトヨの攻撃行動の観察から得た『生得的解発機構(innate releasing mechanism)』である。生得的解発機構(innate releasing mechanism)とは、『リリーサー(releaser, 解発因)』に含まれる『鍵刺激(信号刺激)』によって解発される(引き起こされる)行動メカニズムで、動物の本能行動の発現を説明する有力な理論の一つとなっている。

トゲウオの一種であるイトヨのオスは、繁殖期に入るとメスを迎える為の巣作りをして自らの『縄張り』を持つようになり、その縄張りに他のオスが入ってくると反射的に激しい攻撃行動(闘争反応)を示す。イトヨの求愛行動と攻撃行動を継続的に観察していたティンバーゲンは、イトヨ(♂)の攻撃行動のリリーサーと鍵刺激(信号刺激)に興味を持ってある条件を設定した実験を行った。

その実験の結果、イトヨの攻撃行動のリリーサー(解発因)は、他のオスのイトヨの縄張りへの侵入であるが、鍵刺激(信号刺激)は『イトヨの身体』ではなく『腹部の赤色』であることが分かった。繁殖期のイトヨは、自分と形がそっくりなイトヨの模型には攻撃行動を解発しないが、自分と形が似ていないが腹部を赤く着色している模型には攻撃行動を示すのである。

オーストリアのコンラッド・ローレンツ(Konrad Lorenz, 1903-1989)は、日本では最も有名な動物行動学者であり、正確かつ親密な動物の行動観察に基づくエソロジーの確立に重要な貢献をした人物である。ローレンツの著作を翻訳している日高敏隆も、日本では最も著名な動物行動学者の一人として知られている。コンラッド・ローレンツの代表作『ソロモンの指環―動物行動学入門』では、卵から生まれたばかりのハイイロガンが初めて見た「動く物体」を親と思い込んでしまう『刷り込み(imprinting, インプリンティング)』の本能行動(生得的学習本能)について、自分がハイイロガンの雛に母親と間違われた体験談を中心にして丁寧に解説している。

ソロモンの指環というのは、旧約聖書に登場するユダヤ民族のソロモン王が所有していた魔法の指環で、その指環をするとあらゆる動物と会話することが出来るようになったという伝説がある。

現在のエソロジー(動物行動学・比較行動学)は、脳科学や神経生理学の影響を受けて『神経行動学(neuro-ethology)』という新たな学問領域を切り開いており、それ以外にも集団遺伝学や進化生物学の知見を基盤におく『行動生態学(behavior ethology)』などのエソロジーも発展してきている。

コンラッド・ローレンツは、ダーウィン進化論を前提として『種の保存の利益』を基準に動物の行動方略が進化したと考えたが、『利己的な遺伝子』の著書で知られるリチャード・ドーキンスや社会生物学者のウィルソンは、『種の保存』ではなく『個体の遺伝子の保存』という観点から生物種の行動の進化を考えるべきだと主張している。

■この項目と関連する記事
動物(人間)の行動を研究対象とするエソロジー(比較行動学・動物行動学)



posted by ESDV Words Labo at 16:28 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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