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2006年10月11日

[精神分析学におけるエディプス・コンプレックス(Oedipus Complex)]

フロイトの精神分析におけるエディプス・コンプレックス(Oedipus Complex)

オーストリアの神経科医・心理学者であったシグムンド・フロイト(Sigmund Freud, 1856-1939)が、『無意識の意識化(無意識の言語化)』を治療機序とする心理療法として確立したのが精神分析(psychoanalysis)である。

精神分析療法で『無意識の意識化』を実現する主要な技法は、リラックスした状態で頭の中に思い浮かんだ事柄を自由に話し続ける『自由連想法』と夢の内容やイメージが表現する無意識的な願望を探求する『夢分析』であるが、フロイト以後の精神分析では『転移・逆転移の解釈』『問題解決的な行動処方』も重要なものとされてきている。

精神分析学のリビドー発達論(性的精神発達理論)における『エディプス・コンプレックス(Oedipus Complex, Oedipal Complex)』については、以前に書いた『阿闍世コンプレックス(Ajase Complex)』の項目の中で比較的詳しく説明したので、ここではその内容を再度簡潔にまとめておきたいと思う。エディプス・コンプレックスの名称の由来は、古代ギリシア最大のポリス・アテネ(アテナイ)で、アイスキュロスとエウリピデスと並ぶ三大悲劇詩人であったソフォクレス(B.C.496-B.C.406)の著述した悲劇『オイディプス王』にちなんだものである。

フロイトの考案したリビドー発達論(性的精神発達理論)では、リビドー(性的欲動・性的エネルギー)が充足(備給)される身体部位が精神の発達と共に変化すると考え、その部位に基づき発達段階を定義している。リビドーとは、生理学的緊張によって経験される性的なエネルギーであると同時に、人間の生そのものを動機付けている『生きるエネルギーの源泉』である。リビドー発達論では、『口唇期(0〜1歳半)→肛門期(2〜3歳)→男根期(4〜6歳)→潜伏期(6歳〜12歳)→性器期(12歳以降)』という発達段階を経て、現実原則に従って適応的な行動が取れる自我・超自我が形成されると考える。

精神分析学の発達論では、『男根期』に分類される4〜5、6歳の時期は、別名『エディプス期(Oedipal phase)』と呼ばれるが、父・母・子という家族内の三者関係の情緒的葛藤であるエディプス・コンプレックスはこの時期に経験されることになる。エディプス・コンプレックスとは、『異性の親(母親)に対する性的関心や愛着』『同性の親(父親)に対するライバル心や憎悪』という相対立する感情が内面に同時に生まれている葛藤状態を意味する。

激しい感情の表出を伴う典型的なエディプス・コンプレックスは4〜6歳頃に経験されるが、このアンビバレンツ(両価的・矛盾的)な情緒的葛藤を上手く克服できずに、男根期(エディプス期)にリビドーが固着すると、各種の神経症(ヒステリー)症状が発生しやすくなり、自己顕示欲や依存性・攻撃性の強い不安定な性格が形成されるという。精神分析の文脈でいう『神経症(ヒステリー)』とは、無意識的な欲求の抑圧や過去のトラウマティックな記憶が原因(心因)となって起こる各種の一時的な心身障害や性格異常のことである。

現代の精神医学の診断名でいうと、身体表現性障害や転換性障害、強迫神経症(強迫性障害)、パニック障害、全般性不安障害、妄想性人格障害、自己愛性人格障害、演技性人格障害などが該当することになる。古典的な神経症(neurosis)の病理概念は、このように非常に広範多岐に及ぶ病態を指示するので、病態の具体的な説明能力や精神病理の特定性に欠けている。その為、神経症という診断名は、現代の精神医学的な臨床診断では用いられることがなくなってきている。

男児が家族関係の中で形成するエディプス・コンプレックスに対して、男根期にある女児の母親への敵対心や反発心と父親への愛着や性的関心を『エレクトラ・コンプレックス』と呼ぶことがある。エレクトラ・コンプレックスの概念も、『オイディプス王』を書き表したソフォクレス(ソポクレス)の悲劇『エレクトラ』に由来している。

『オイディプス王』が父親のライオスを殺して母親のイオカステと交わるという原父殺害のモチーフであるのに対して、『エレクトラ』は、父親アガメムノンを謀殺した母親の王妃クリュタイムメストラとその愛人アイギストスを、エレクトラと弟オレステスが協力して打ち倒すという復讐譚になっている。父親のアガメムノンとは、ホメロスの叙事詩『イリアス』『オデュッセイア』で題材となっているトロイア戦争に登場するギリシア軍の総大将アガメムノンのことである。

精神分析のエディプス・コンプレックスの経験が持つ意味は、『口唇期から肛門期の自体愛』を乗り越えて『男根期以降の対象愛』を志向するということである。言い換えれば、『家族内部の閉鎖的なエロスの関係』から、『外部社会の開放的なエロスの関係』へと性的関心や関係欲求を転換することによって、将来の異性関係や社会生活を自立的に営める自我を強化するということである。また、社会的に承認されている『男らしさ・女らしさ』というジェンダーを獲得し始める時期もエディプス期であり、エディプス期には生物学的・社会的な性差への自覚が高まる。

エディプス・コンプレックスの持つもう一つの意義は、母親への性的欲求や幻想的な一体感に象徴される『幼児的な全能感』の断念であり、全てが思い通りにならないことをインセスト・タブーの挫折によって知ることになる。この事が、段階的な超自我(内面的な良心)の形成を促進して、対等な他者と関係を持つ社会生活への適応能力を高めるのである。エディプス期では、『権威主義の父親』は、社会(他者)の厳しさや守るべき行為規範を象徴しており、その『父親の規範性・倫理性』を内面化することによって、社会規範としての超自我の精神構造が形成されることになる。



posted by ESDV Words Labo at 03:23 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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