フィールドワーク(field work)
事前に環境条件を整えた『実験室』ではなくて、研究対象が実際に存在する『現場(フィールド)』に出向いていってデータ(必要な情報・証言)を収集する調査研究法を、フィールドワーク(field work)やフィールドスタディ(field study)という。
フィールドスタディのもっとも有名な研究として、労働条件(賃金・照明環境・拘束時間・人間関係)と労働者の生産性(作業効率)との相関を調べた『ホーソン実験(ホーソン工場の実験)』を取り上げたが、フィールドスタディとフィールドワークの最大の違いは『関与的観察(participant observation)』をするか否かである。
『関与的観察(participant observation)』は『参加しながらの観察』と訳されることもあるように、簡単に言えば研究対象となっている異文化の人々と一緒に生活をしながら、研究調査に必要な観察をするということである。研究者が必要とする情報や文化様式を持っている“インフォーマント(情報提供者)”に接触して、一般的な会話をしたり準備してきたインタビューをしたりする社会調査活動のことも含めてフィールドワークという。更に、人類学・進化生物学のように研究対象が人間(ヒト)ではない『類人猿』のチンパンジーやゴリラ、ボノボ(ピグミーチンパンジー)の場合でも、類人猿と一緒に共同生活しながらその行動や文化、関係を観察することがあり、これもフィールドワークの一種である。
フィールドワークは文化人類学・社会人類学・人類学・社会学・地理学・地質学・生物学などで実施されている調査研究法であり、研究室(実験室)の外部で行われるメソッドということで『実地研究・野外調査』というように表現されることもある。研究者や調査者自身が、研究対象(調査対象)となっている特定集団の中に入り込んで共同生活をしながら観察をする方法であり、そういった関与的観察を通してその集団の特徴・性質・文化様式などを整理して分析していくのである。
フィールドワークの研究方法としての有効性や利点は、『異文化・異民族・異種(動物)の調査研究』において顕著に表れることになるが、それは調査者と調査対象の間で『生活様式・文化活動・思考形態・価値観の大きな違い』がある時にでも、実際に調査対象の集団の中に入って観察やインタビューをすることができるということである。ただ外部から観察するだけでは、十分にその調査対象にまつわるデータや知識が得られないことは多いが、フィールドワークは『自分と異なる文化・思考・生活を持っている集団』を参加的に調べる時に有効な方法なのである。
また、関与型のフィールドワークを通して、その集団の特徴や文化を規定している『社会的要因』の相互的関係性を解明することができ、そういった社会的要因が絡み合っている社会的プロセスを説明するための仮説を構築できるという意味でのメリット(利点)もある。フィールドワークでは『関与的観察・インフォーマントへの面接(インタビュー)』といった方法で調査が進められていくが、最も重要なのはフィールドワークを実施する研究者の積極的な問題意識と仮説構築であり、特にその集団・文化についてどういった内容を調査したいのかという『目的設定・理論的枠組み(参照枠)』が大切である。