ユージン・ジェンドリンのフォーカシング(focusing)とそのプロセス:3
この記事は、[前回の記事]の続きになります。 フォーカシングにおけるフェルトセンスは、ある特定の状況や人間関係において自然に生じてくる身体感覚であり、時に激しく感じられたり時に穏やかに流れるように感じられたりするものである。内面・身体に意識を向けるまでは、初めは『ぼんやりとした曖昧な感じ・はっきりとしないそこにある感覚』として体験されており、フォーカシングで意識を向けて体験を重ねることによって、次第に『はっきりとした輪郭を持つ感じ・自分にとっての特別な意味やメッセージを含んだ感覚』として全体的で治療的な体験ができるようになってくる。
フェルトセンスを感じようとする体験を繰り返して、それに合致するハンドル(言葉・イメージ)を見つけていくことで、フォーカシングの治療的・改善的なプロセスは進んでいくのだが、そのプロセスには『パーソナリティの成長的・治療的な変容』という効果があるとされている。フォーカシングというカウンセリング技法は、『身体感覚(フェルトセンス)・感情・言語との相互関係あるいは相互作用』を利用した体験的技法であり、個人個人で大きく異なる内的な感じを言葉やイメージに置き換えることで、『気持ちがすっきりとした感じ・自己実現(自分の全体性)に近づけた感じ』を体験しようとするものである。
『身体感覚(フェルトセンス)』と『ハンドル(言葉・イメージ)』がぴったりと一致すると、心地よい気分の変化や胸にじわりと沁みてくる充実感(解放感)を感じることがあるが、この『ぴったりとくる気持ちいい感じ』へ自分の感じ方を変換していくことを、『フェルト・シフト(felt shift)』と呼んでおり、このフェルト・シフトがフォーカシングの作用機序(治療メカニズム)として機能している。
フォーカシングの原理や理論、仕組みを応用した『派生的なカウンセリング技法』には、次のようにさまざまなものがある。
1.集団フォーカシング……フォーカシングの技法を集団療法(グループカウンセリング)に応用した技法。
2.夢フォーカシング……自分の見た夢に対する気持ちや雰囲気を感じてみたり、夢の中の登場人物や場面を選んで、身体感覚を通してそれらの感じ(良い感じか悪い感じか)に触れていくという技法。
3.心の天気(土江,2003)……自分の内的状態を天気に喩えてみて、『気持ちよく晴れていてすっきりする・どんより曇っていて暗くなる・雨が降っていてどうにも気分が落ち込む』といった言葉で表現してみたり、その天気の様子を紙にイラストとして描いてみたりする技法。
4.クリアリング・ア・スペース(Clearing a Space)……気になっていることや悩んでいることに付随している『嫌な感じ・苦しい感覚』を自分から切り離して、何かの入れ物(容器)に閉じ込めてしまうような形で想像力を働かせるという一種のイメージ療法のような技法。
5.こころの壷(横山,1989)……上の“クリアリング・ア・スペース”と似た技法であり、7つの円が密接して書かれている所定の用紙に、身体の内部の感じを記号・絵によって表現していき、その記号化(イラスト化)した感じを、壷・箱のような容器の絵で閉じ込めていく(しまい込んでいく)という技法。
6.インタラクティブ・フォーカシング(Interactive Focusing)……ジャネット・クラインが開発した技法で、『1.感じを物語る→2.反射的応答→3.自分の実感を元にしたフィードバック→4.二重の共感を感じる→5.役割交換とインタラクティブな応答・会話→6.1〜5の繰り返し』のプロセスによってカウンセリングが進められていき、一般的な会話による共感の効果も重要視している。
7.フォーカシング指向体験療法……ニール・フリードマンが開発したフォーカシングとゲシュタルト療法、ハコミ・セラピー、行動療法を実践的・体験重視的に組み合わせた折衷技法である。
8.ホールボディフォーカシング……身体全体を活用するという意味のフォーカシングであり、Kevin McEvenueが考案してフォーカシングとアレクサンダー・テクニックを融合させた技法である。
9.フェルトセンス描画法……フォーカシングにおける『言語化・象徴化の困難さ』をフォローできる芸術療法(絵画療法)で、身体の感じを絵画・イラスト・コラージュ(切り得)・粘土などによって表現していくという技法。
10.TAE(Thinking At the Edge)……E.T.ジェンドリンが考案した『フォーカシングにおける思考・対話・議論』を重要視する技法であり、フォーカシングの理論構成を発展させたり、フォーカサーの内的世界を具体的に理解したりするのに役立っている。

