フェミニスト・セラピー(feminist therapy)
フェミニズム(女性主義)の思想・活動を前提として、女性の権利保護に積極的な女性カウンセラーが実施する『女性のためのカウンセリング・女性特有の問題や心理に重点を置いた心理療法』のことをフェミニスト・セラピー(feminist therapy)と呼んでいる。
フェミニスト・セラピーとは『女性の権利・自由を最大限に尊重する、女性カウンセラーによる、女性クライエントのための心理療法(カウンセリング)』であり、フェミニズムの思想の影響の度合い(レベル)には個人差があるものの、基本的に男女差別(女性蔑視)を生み出す社会構造というものを前提にして話し合いを進めていくことに特徴がある。
フェミニスト・セラピーは、『第三波のフェミニズムの思想・運動』が芽生え始めた1970年代に開発されるようになり、女性の社会的な立場・権力的な位置づけ(男性優位社会における負の影響)を考慮することを前提にして、『女性の心理的健康・身体的安全を確保するための心理臨床技法』として普及していった歴史的経緯がある。フェミニスト・セラピーには、女性の権利や立場を守りその主体性・自尊心を向上させていくことを目的とした以下の3つの基本原則がある。
1.女性は政治的な差別待遇や社会的・経済的な構造による不利益、家庭における性別役割分担(夫による精神的抑圧)の悩みを蒙りやすいので、『個人的原因』だけでなく『社会的原因』も合わせて考えながら心理療法を実施する。
2.社会構造や性別役割、伝統規範が強制してきた『男性の支配性・女性の従属性』を否定するために、フェミニスト・セラピーでは非指示的技法のスタンスを取って、カウンセラーとクライエントとの間の上下関係(指導関係)を徹底的に否定するようにする。
3.カウンセラーのフェミニズムの思想・主張がクライエントに一定以上の影響を及ぼすことは避けられないので、事前にフェミニスト・セラピーの趣旨と目的を説明してインフォームド・コンセントを取った上で、『女性保護の共通価値』を前提とした心理療法を進めていく。
フェミニスト・セラピーでは、男女の違いを前提とした社会常識に逆らって主体性(独自性)を確立することが奨励され、男女の伝統的な性別役割分担も完全に否定しようとするので、女性クライエントであってもそのセラピーが合っているか否か、実際の問題解決につながるかにはかなり大きな個人差がでてくる。フェミニスト・セラピーの心理療法の中で重要視されているのは、虐げられた経験に対する『怒り』の感情への気づきとその感情の発散、女性は弱くて従うものという社会常識から無理に学ばせられた『学習性無力感』に抵抗すること、自助努力と自己実現の奨励、自律的な生き方や価値観の実践などである。