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2006年10月23日

[エビングハウスの忘却曲線:人間の記憶機能と復習の有効性]

ヘルマン・エビングハウスの忘却曲線

創造・計画・思考・判断など人間の高次脳機能を駆動する中心的な精神機能が『記憶』であるが、ドイツの心理学者へルマン・エビングハウス(Hermann Ebbinghaus, 1850-1909)は『記憶(記銘・保持・再生)』が時間経過によってどのように変化するのかを実験法を用いて忘却曲線という形で記述した。環境条件を統制した客観的な実験的研究を重視したヘルマン・エビングハウスは、エルンスト・ヴェーバー(1795-1878)やグスタフ・テオドール・フェヒナー(1801-1887)といった古典的な精神物理学の心理学者の影響を強く受けていたが、エビングハウスの名を不朽のものとして心理学史に刻んだのは『無意味綴り』を用いた記憶の忘却実験である。

19世紀後半に行われたエビングハウスの忘却実験で使われた無意味綴りの言葉というのは、『jor, nuk, lad』といった『子音・母音・子音』の無意味な音節である。エビングハウスは被験者に、学習経験に影響され難い無意味綴りを記憶(記銘)させて、記憶の保持と忘却のスピード(割合)を再生率を測定して研究した。一般的に無意味綴りを記憶させれば、時間経過と共にその記憶内容は忘れられていくが、エビングハウスは時間経過によってどのくらいの記憶内容が失われるのかを計測してグラフ化した。縦軸に記憶率(忘却率)、横軸に時間を取ってグラフ化された曲線を、一般に『エビングハウスの忘却曲線』と呼んでいる。

無意味綴りを記憶(記銘)させて、その記銘した内容が時間経過によってどのように忘却されていくのかを再生率を確認して測定した『エビングハウスの実験』の結果は以下の通りである。

20分後には42%を忘却し、58%を保持していた。
1時間後には56%を忘却し、44%を保持していた。
1日後には74%を忘却し、26%を保持していた。
1週間後(7日間後)には77%を忘却し、23%を保持していた。
1ヶ月後(30日間後)には79%を忘却し、21%を保持していた。

エビングハウスが実施した記憶実験から分かることは、『人間の記憶内容は、記銘した直後には、指数関数的に急速に減少するが、次第に緩やかな減少に転じ、一定時間が経過するとそれ以上の忘却が殆ど起こらなくなるという事』である。また、この実験条件では、再生に関連するヒントを与えても全く思い出せない『完全忘却』と再生を手助けするヒントを与えれば思い出せる『再認可能な忘却』とが区別できていないので、人間の高次脳機能としての記憶の全貌を客観的に解明したとは言い難い部分もある。

学習行動を確実に有効化して、記憶した知識・情報を短期記憶から長期記憶へと変換する為には、『反復的な復習』と『知識の意味づけ・関連づけ』が重要になってくる。また、エビングハウスが実験で使った『無意味綴り(無意味語)』の特徴として、普通の教科学習(学校の勉強・学問活動)で記憶する『意味語(専門用語や理論的内容)』よりも忘却率が大きくなり、忘却スピードが早くなることがある。進化の歴史を経てきた人間の脳は、『機械的で無意味な内容の記号(数字)』を義務的に記憶する行為よりも、『有機的で意味のある言葉』を意欲的に記憶する行為により適しているといえる。

コンピュータのハードウェア(演算装置・メモリ)や周辺機器(デバイス)、I/O(インプットとアウトプット)は、よく人間の脳に例えられるが、記憶機能に関してはコンピュータと人間の脳は全く異なる特徴を持つ。コンピュータのHDDは、どんな無機的な情報であっても、一言一句間違えることなくそのまま機械的に情報を保存(記憶)することが出来るが、人間の脳は無意味な記号や数字の羅列の記憶が苦手なだけでなく、情報を完全にそのまま記憶するような機能は通常備わっていない。稀に天才的な記憶機能を持つサヴァン症候群の児童などがいるが、驚異的な情報記憶能力を持つ子供はそれと引き換えになんらかの発達的問題(自閉症)や精神的障害(多動や刺激過敏性など)を抱えていることが多い。

学習行動の効率性や記憶機能の保持率を高める為には、復習(記憶の確認と再生)を反復的に繰り返すことが有効だが、それ以外にも、記憶した知識・情報を『既存の知識や経験』と関連付けたり、『覚えやすい語呂合わせや身近な出来事』で意味付けたりすることによって、より記憶を強化し忘却率を低下させることが出来る。科学的心理学の観点からエビングハウスの実験を考えると、それまで主流だった主観的な内観法でなく客観的な実験法を用いて、数理的に実験結果を分析(グラフ化)したことが評価される。

ラベル:心理学 学習
posted by ESDV Words Labo at 10:50 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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