福祉事務所(social welfare office)と社会福祉・社会保障：４
この記事は、[前回の項目]の続きになっています。 『福祉六法（生活保護法・児童福祉法・母子及び寡婦福祉法・老人福祉法・身体障害者福祉法・知的障害者福祉法）』に基づいて設置される福祉事務所は、設置が義務づけられている都道府県には“211ヶ所”、同じく設置が義務づけられている市（特別区）には“997ヶ所”、任意で設置できる町村には“41ヶ所”あり、合計で日本には“1249ヶ所の福祉事務所”が存在している。
1993年（平成5年）４月に、老人及び身体障害者福祉の分野で施設入所措置事務等が都道府県から町村へ移譲されることになり、2003年（平成15年）４月には知的障害者福祉分野の入所措置事務等も移譲された。そのため、都道府県の福祉事務所では、従来の『福祉六法』から『福祉三法（生活保護法、児童福祉法、母子及び寡婦福祉法）』を所管することになり、管轄事務領域が縮小されている。
福祉事務所には『社会福祉法第15条』に基づいて、次の職員が配置されなければならないとされている。それ以外にも利用者・家族のニーズに合わせて、『社会福祉主事・身体障害者福祉司・知的障害者福祉司』などが配置されている福祉事務所がある。
１. 所長……都道府県知事または市町村長（特別区の区長含む）の指揮監督を受け、福祉事務所の業務・所務を管理統括する役割を果たす。
２. 指導監督を行う所員（社会福祉主事）……所長の指揮監督を受け、現業事務の指導監督を司るスーパーバイザーの役割を果たし、現業所員を管理する査察指導員となることもある。小規模の福祉事務所では所長が社会福祉主事を兼務することも許されている。
３. 現業を行う所員（社会福祉主事）……所長の指揮監督を受け、援護、育成または更生の措置を要する者等の家庭を訪問して（訪問しないこともある）、要支援者に面接して必要な現業業務を行う。要支援者の資産状況・生活状況・家族関係・環境等を調査して、生活保護・就業支援・施設利用その他の措置の必要性の有無やその種類を判断するのが仕事であり、本人に対しては生活指導を行うこともある。
一般的には、『ケースワーカー（ケースワーク）』や『ソーシャルワーカー（ソーシャルワーク）』の仕事と呼ばれている生活の現状と福祉のニーズを把握する業務であり、社会福祉・社会保障の実務はこれらの担当職員が司っている精神的負荷の高いケースワークやソーシャルワークと切り離して考えることはできない。
４. 事務を行う所員……所長の指揮監督を受け、事務所における庶務・書類管理・雑務などを司っている。
福祉事務所の所員の定数は、地域の実情とニーズに合わせて条例で定めると規定されているが、現業業務を行う所員の数については各福祉事務所の被保護世帯の数に応じ、次に掲げる数を標準として定めるようになっている。
都道府県は被保護世帯が390以下の場合は6人、65世帯が増加するごとに1人を増員する。市（特別区）は被保護世帯が240以下の場合は3人、80世帯が増加するごとに1人を増員する。町村は被保護世帯が160以下の場合は2人、80世帯が増加するごとに1人を増員する。2012年現在では、慢性的なデフレ不況や生活保護を下回る最低賃金の低さ（労働意欲を刺激しない労賃の状況）、東日本大震災の影響もあり、生活保護者が210万人を超える深刻な状態となっており、福祉事務所でケースワーク・相談業務の現業を担っている人員不足の問題も指摘される。
福祉事務所の指導監督を行う所員や現業を行う所員は、上記した職務にのみ専門的に従事することが原則だが、その職務遂行に支障がない場合には他の社会福祉や保健医療に関する業務を兼務することができる。そのため、地域社会の民生委員や児童委員に関する事務、児童扶養手当に関する事務などを行っている福祉事務所も多くなっている。
社会福祉・社会保障の分野や業務に関心を持たれている方は、当ブログにおける『クリニカル・ソーシャルワーク(clinical social work)と社会福祉活動』や『MSW(Medical Social Worker, 医療ソーシャルワーカー)とPSW(Psychiatric Social Worker, 精神保健福祉士)：社会福祉事業の活動領域の拡大と医療分野との連携』、『ケースワーカー(caseworker)と社会福祉的な援助』、『バイステックの７原則(seven principles of Biestek)とケースワーク』などの関連項目の説明にも目を通してみて下さい。
