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2006年10月31日

[家族療法の中心的研究機関としてのMRI(Mental Research Institute), グレゴリー・ベイトソンのダブルバインド理論(二重拘束理論)]

家族療法の中心的研究機関としてのMRI(Mental Research Institute), グレゴリー・ベイトソンのダブルバインド理論(二重拘束理論)

家族成員の相互作用(コミュニケーション)を変容させていく家族療法では、家族成員を構成要素とする家族システムを対象として効果的な援助と介入を行っていく。『精神医学は対人関係論である』と主張したハリー・スタック・サリヴァンのコミュニケーション重視の精神療法や「これからどうするのか」という目的志向性を持つアルフレッド・アドラーの個人心理学は、家族療法以前のシステムズ・アプローチとして知られている。

家族療法の確立に決定的な影響を与えたのは、壮大な『精神の生態学』を構想したアメリカの文化人類学者・社会学者・心理学者グレゴリー・ベイトソン(G.Bateson, 1904-1980)が提示した『二重拘束理論(ダブルバインド理論, double bind theory)』である。二重拘束理論(ダブルバインド理論)とは、相互に矛盾(対立)する二つのメッセージを同時に受け取ることによって、強烈な精神的ストレスを感じる葛藤状態が発生するという理論である。二重拘束理論の確立に関係したのは、グレゴリー・ベイトソンだけでなく、MRI(Mental Research Institute)の創設者であるジャクソンやヘイリー、ウィークランドもその理論形成の過程に関わっている。

即ち、親から発せられる『一次的メッセージ(言語的・非言語的メッセージ)』と一次的メッセージの後に発せられる『二次的メッセージ(メタ・メッセージ)』とが食い違っていて対立している場合に、子供はどちらのメッセージが『親の真意(本当の感情や希望)』を表現しているか判断できずに混乱して行動を決定できなくなるのである。親が子供に対して、『テレビゲームをしてもいいよ』と一次的な言語的メッセージを発している場合に、不機嫌な態度や乱暴な動作で『本当はテレビドラマを見るつもりだったのに、ゲームをするなんてイライラする』という二次的な非言語的メッセージを発している状態が『二重拘束状態』である。親の表面的メッセージと深層的メッセージが食い違っていると、子供はゲームをしていいのかしてはいけないのか判断できなくなり強いストレスを感じてしまう。

また、夫婦仲の悪い家庭環境で、二人の親から発せられるメッセージが正反対のものである場合にも二重拘束状態が生起する。母親が『ご飯を食べる前に、学校の宿題を終わらせなさい』という言語的メッセージを発し、父親が『学校の宿題なんて後回しにして、さっさとこっちに来てご飯を食べなさい』という言語的メッセージを発しているような場合には、母親と父親のどちらの指示に従うべきかという葛藤状態が子供に生まれる。

更に、父親(母親)が『母親(父親)の言うことを聞いて、私の指示を無視したら厳しい罰を与えるぞ』という威嚇的な禁止命令を暗黙のメッセージとして発している場合には、より一層深刻なダブルバインド状態が生まれる。こういった二重拘束理論で説明されるダブルバインド状態というのは、お互いに影響力を強めようとしている三者関係や一人の人間の好意や支持を奪い合っている三角関係で頻繁に見られるものであり、簡単に言えば、『お前はどちらの味方なのか?(旗幟を鮮明にせよ)』と問われている状態なのである。どちらの意見(指示)を聞いても、どちらの味方になっても問題が良い方向に解決せず、どちらかの敵意や憎悪を受けてしまうという苦痛なストレス状況がダブルバインド状態である。

二重拘束(ダブルバインド)状態は、以下の6つの要素と統合失調症の心因仮説によって定義される。

1.2人以上の発話者が存在している。
2.一次的メッセージを否定する二次的メッセージが発せられる。
3.一次的メッセージの命令とは矛盾した二次的な命令が下される。
4.矛盾する事態から逃げてはならないという状況に追い込まれる。
5.自分が二重拘束状態(ダブルバインド状態)の中にあることを認識する。
6.二重拘束(ダブルバインド)の状態を繰り返し経験してストレスを受ける。
7. 統合失調症(精神分裂病)の原因説では、『矛盾するメッセージを変容させる妄想型』『矛盾するメッセージを全受容する破瓜型』『矛盾するメッセージを無視して逃避する緊張型』が仮定された。

精神分裂病(現・統合失調症)患者のいる家庭の相互的コミュニケーションを観察する過程で着想した理論であり、当時は、ダブルバインド理論で説明される『二重拘束状況』の強い混乱と苦悩が精神分裂病の発症原因であると考えられていた。現在では、統合失調症の原因は、生得的な脳の器質的障害(機能的障害)や後天的な神経伝達物質(ドーパミン)の過剰分泌であると推測されており、ダブルバインド理論による統合失調症の心因説には信頼するに足る科学的根拠がないと言われている。

家族療法の成長発展に寄与した中心的な研究機関には、アメリカ西海岸のMRI(Mental Research Institute)と東海岸のアッカーマン研究所がある。家族療法の発祥地でもあるMRIはD.D.ジャクソンによって創設された。短期間で家族の問題や主訴を改善させることを目的に研究調査を進めるMRIは、グレゴリー・ベイトソンらが発見したダブルバインド仮説と催眠療法家ミルトン・エリクソンの短期療法(Brief Therapy)の影響を色濃く受けた研究機関である。

MRI(Mental Research Institute)はカリフォルニア州パロアルトにあることから、東海岸で精神分析的な家族療法を行うアッカーマングループに対して、パロアルトグループと呼ばれることもある。パロアルトグループとアッカーマングループは、現代の家族療法を主導する中心的な研究機関であるが、両者は共同で『ファミリー・プロセス(Family Process)』という専門機関誌を発刊している。MRIの家族療法の特徴はコミュニケーション・プロセスの改善にある為、コミュニケーション派という学派に分類されることもある。

MRIの家族療法の3本の柱は、『システム理論・コミュニケーション理論・システムズアプローチ』であり、MRI初期の研究者(療法家)には戦略派のJ.ヘイリーやJ.H.ウィークランドがいて、その後、V.サティアやP.ワツラウィック、家族評価のA.ボーデン、R.フィッシュといった卓越したシステム調整の技能を持った面々が加わった。

コミュニケーション派のMRIと精神力動的家族療法のアッカーマングループは、世界の家族療法の主要な潮流だが、それ以外にも、理性システムと感情システムの分化・融合を軸として家族システム論を確立した多世代派家族療法のボーエンや境界線・提携・権力の概念で家族構造を捉えシステムを改善する構造派家族療法のミニューチン、洗練されたブリーフセラピーをシステマティックに活用するミラノ派のセルビーニ・パラツォーリがいる。

posted by ESDV Words Labo at 00:33 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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