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2006年11月05日

[LSD(Lysergic Acid Diethylamide, リゼルギン酸ジエチルアミド):精神展開薬の化学合成]

LSD(Lysergic Acid Diethylamide, リゼルギン酸ジエチルアミド):精神展開薬の化学合成

LSD-25とも呼ばれるLSD(Lysergic Acid Diethylamide, リゼルギン酸ジエチルアミド)は、スイスの薬学研究者アルバート・ホフマン(Albert Hofmann)に発見された幻覚薬である。A.ホフマンは、ライムギに寄生する麦角菌に含まれるリゼルギン酸から合成したが、この化学合成に成功する以前から麦角菌は、民間療法的な陣痛促進剤として使用されることがあった。客観的に存在しない事物や対象を感覚器官に知覚させる『幻覚作用(illusion effect)』を持つ物質は、化学合成された向精神薬や薬物以外にも自然界に数多く存在していた。代表的な自然界の幻覚剤としては、ヨーロッパ大陸のマンドレイク(ナス科植物)や中近東地帯のハシシ(クワ科植物)、ロシアのベニテングタケなどが知られており、マジック・マッシュルームと呼ばれる一連の菌類にも幻覚作用が見られる。

現代文明社会に生きていると、薬物を用いて精神に影響を与えたり変性意識状態(トランス状態)を導くことは法律に違反する悪いことであるという認識が強いが、近代社会が成立する以前には、世界各地の未開文明に宗教的な神秘体験(シャーマニズム体験)や精神的な安楽と解放、病気治療の為のリラクセーションを目的としたドラッグカルチャーが息づいていた。自分が生活する国家・社会の規範(法律)に違背してドラッグカルチャーを謳歌することは問題であるが、前近代的な社会には、自然から入手することが可能な植物や香料を利用した独特のドラッグカルチャーが存在していた歴史的事実は興味深い。アメリカでも1960年代の反文明的なヒッピーブームの最中にLSDを用いたカウンターカルチャーが隆盛したが、その後すぐに法規制されることになった。

向精神作用を持つ薬剤や植物を利用することが禁じられやすいのは、多幸感や解放感、爽快感を得られる代わりに、自傷他害の反社会的行や注意力・集中力が低下して各種の事故を起こす恐れが高くなるからである。また、厭世的で無気力な気分を強めて社会生活への適応力が低下したり、労働意欲が低下して内面生活(神秘的な世界)への過度の沈潜(引き篭り)を引き起こすこともあるので、ドラッグ文化が蔓延し過ぎると、社会全体に享楽的で退廃的な雰囲気が漂いやすいという問題が生じてくる。

一定以上の労働意欲(勤勉性)と規則正しい生活習慣を必要とする現代社会は、幻覚・鎮静(催眠導入)・興奮の作用がある物質の乱用を規制しなければ成り立たないので、精神障害や睡眠障害の治療目的以外で向精神薬を処方し使用することは禁じられているのである。幻覚薬の一種であるLSDは、1970年に『麻薬及び向精神薬取締法』の規制の対象とされている。

化学合成で作成されるLSD(D-リゼルギン酸ジエチルアミド)は、強力な中枢神経系への作用を持つので、0.25mg以上の極少量の服用で、幻覚や多幸感、抑うつ、統合失調症類似症状を生起させる。LSDの薬理機序はセロトニンの神経伝達を抑制することであるが、この機序そのものはLSDの幻覚作用には関係していないとされる。一般的に、自律神経系の交感神経を活性化して、心拍数や血圧、体温を上昇させ、発汗や唾液分泌を促進する作用がある。幻覚の種類で最も多いのは、物がぐにゃりと歪んで見えたり、輝かしい極彩色の光の明滅に包まれたりする『視覚性幻覚』や時間の経過に関する異常が鈍磨する『時間間隔の変性』である。

医学的には精神展開薬(psychedelic drug)に分類されるLSDの作用時間は6〜12時間であり、その作用時間が経過するまでは多くの場合、睡眠障害(不眠)の症状に襲われることになる。LSDは精神依存性と耐性はあるが、身体依存性はなく通常の違法薬物に見られる身体的な健康や中毒症状のリスクは低いとされる。しかし、精神状態を変容させて幻覚を生じるので、薬理効果が発現している時間に誤った判断や危険な行動をしてしまう恐れは十分にあるし、不快・爽快な心理体験が突然再現されるPTSDのようなフラッシュバックも副作用として多数報告されている。

ラベル:医学 薬学
posted by ESDV Words Labo at 20:23 | TrackBack(0) | え:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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