プライマリー・ケア(primary care)とかかりつけ医の地域医療:3
この項目は、[前回の記事]の続きの内容になっています。 『プライマリーケア(primary care)』という言葉・概念の日本での認知度は未だ低いのが実情であるが、プライマリーケアというのは『身近な場所にいる何でも相談できるかかりつけ医と医療関係者による第一次医療・全人的な総合医療』のことであり、大病院の専門医と連携することで地域医療の根幹を支えている概念である。しかし残念なことに、医療者の間でもプライマリーケアに関する誤解や軽視の風潮は残っており、『総合医は専門医よりも知識や技能、資格で劣っているという誤解』を持っている医師も少なからずいる。
しかし、これは完全に間違った認識であり、特定の臓器に関する専門医資格を持っていて経験の豊かな医師でも、プライマリーケアを行う総合医としての役割を果たすこともあり、『非専門医(専門領域を持っていない医師)=プライマリーケアの総合医』という図式は必ずしも成り立たないのである。プライマリーケアにおける“primary”とは、『主要な,重要な』という意味であり、『初級の,基礎の(より初歩的な)』という意味ではなく、その医師に十分な臨床経験と医学的な知識があって初めて成り立つ医療なのである。
日本プライマリ・ケア学会が認定する『プライマリ・ケア専門医』、日本家庭医療学会が認定する『家庭医療専門医』などの資格制度が既に発足しているが、ジェネラリストとしての技能・知識と臨床経験を証明するような専門資格の統一は為されておらず、そのことがジェネラリストはスペシャリストよりも専門性で劣るという誤解の原因になっているという指摘もある。2010年には、プライマリ・ケア関連の3学会(総合診療医学会・日本プライマリケア学会・日本家庭医療学会)が合併して『日本プライマリ・ケア連合学会』が発足しており、プライマリ・ケアに関する統合的な専門資格の設置も検討されているようである。
WHO(世界保健機関)が初めに提唱した『プライマリーヘルスケア』は、感染症などの一次予防に関する地域保健医療の意味を強調して使われていた概念であるが、先進国では公衆衛生・予防接種(ワクチン)などの一時予防よりも、患者を一人の人間として診て、継続的で総合的な身近にある医療を提供していくという点に主眼が置かれている。プライマリーケアは『かかりつけ医制度・主治医制度』とも密接な関わりがあり、一人の患者を一人の担当医(主治医)が責任を持って継続的に診療してフォローしていくという意味もある。
看護師の職業領域でも、一人の患者の看護ケアを入院から退院まで一人の担当看護師が継続的に責任を持って行うという『プライマリー・ナーシング・ケア(primary nursing care)』の概念が提唱されているが、これは『主治看護師制度』として入院医療などで具体化されている。
1996年には米国国立科学アカデミー(National Academy of Sciences,NAS)の医学部門で、『患者の抱える悩みや問題の大部分に対処可能であり、継続的なパートナーシップを築いて、家族及び地域の枠組みの中で責任を持って診療する臨床医によって提供されるサービスである。総合性・継続性と受診のしやすさ(医療のアクセシビリティ)に十分な配慮がされたヘルスケアサービスである』という文言で、プライマリーケアの理念と実際が定義されている。

