ブラックボックスの原理(black box principle)とカウンセリングの技能
ブラックボックス(blackbox)とは、内部構造や具体的な仕組みが分からない状態の事であり、日常的には高度かつ複雑な技術が応用された電子機器・情報端末などを指して『この機器の仕組みはブラックボックスである』といった表現が為される。ブラックボックスは『暗箱』と翻訳されるが、現代社会に溢れている電器・機械・コンピューター・携帯電話(スマートフォン)などの多くは、一般人にとってはブラックボックスでありその仕組みを正確に理解して再現したり作ったりすることはできない。
現代社会に存在する多くの製品や商品は、その分野の専門家(技術者)ではない一般人にとってブラックボックスになっているが、システムの内部構造(仕組み)を理解できなくても使うことはできるというのが『文明の利器』の特徴ではある。スマートフォンのシステムや基盤(電子部品)の内部構造を正しく理解して、ゼロからスマートフォンを作れる人というのは殆どいないが、誰もがその操作法を学べばスマートフォンでウェブを閲覧したりアプリをダウンロードしたりして使うことはできる。
ブラックボックスであるシステム(製品)に対して、人は“インプット(入力)”を加えることで、そこから自分にとって必要な“アウトプット(出力)”を導き出すことができ、そのシステムの内部構造は理解できなくても、『システムの特徴・機能・有用性』は理解することができるのである。カウンセリングとブラックボックスの関係は、カウンセリングのセッションが生み出す気づきや改善効果について、その具体的なプロセスが多種多様であり、特定のシステムとしてその内部構造を記述し尽くすことができないということである。
心理臨床におけるカウンセリング(心理療法)は、『支持療法・洞察療法(精神分析的療法)・作業療法(芸術療法)・認知療法』などの大まかな分類が為されているが、それぞれのカウンセリング技法のプロセスと効果を説明する理論はあっても、その具体的な内部構造や仕組みについては客観的に記述・検証できない要素も多いのである。カウンセリングはコンピューターや機械のように、この入力(インプット)をすればこの出力(アウトプット)がでるというような『一対一の確実な相関関係(マニュアル通りに展開してくれる心理面接)』があるわけではない。そのため、同じ入力としての言葉や指示、共感をクライアントに与えても、それに対してどんな反応(効果)が返ってくるのかは非常に個人差が大きく、オーダーメイドのカウンセリングのセッションが要求されてくるのである。
カウンセリング(心理療法)は『ブラックボックスの領域』が指摘されることで“非科学的・主観的”と批判されることもあるのだが、現在のカウンセリング(心理療法)では『科学的な客観性(統計的な検証)』と『臨床的な有効性(実際の効果)』の双方が重視されている。臨床的な有効性にはブラックボックスとしての心理臨床家の技能(アート)・経験知が深く関係しており、その技能・経験は『客観的・教科書的な記述』だけでは伝達し尽くすことが難しく、それらを師から教え子に伝えるための一つの方法としてマンツーマン型の『教育分析(スーパービジョン)』がある。

