交流分析の人生の基本的立場(Life Position)
人生の基本的立場(Life Position)とは、発達早期の人間関係や決断の経験によって育まれる『自己受容(自己肯定)と他者受容(社会肯定)に関係した人生の基本的な立場』のことである。交流分析では、3つの自我状態を前提とするエゴグラムの判定結果に基づいて、自分の性格の歪みや認知傾向の偏りを修正する『構造分析』を行い、他者との交流パターンの特徴を分析して問題点を改善する『交流パターン分析』を行う。
根本的な対人関係の障害や人生の困難の問題を解決する為に重要になってくるのは、その人の基本的な人生計画の青写真を示す脚本を建設的で肯定的なものに書き換えていく『脚本分析』であり、自己と他者の存在価値や肯定感情のあり方を規定する『人生の基本的立場(基本的な構え)』の修正である。
人生の基本的立場は、『OKである・OKでない』という二分法の図式で論理的に示されるが、『OKである』というのはあるがままの自己や他者の存在と人生を肯定し受け容れていることである。最も健全な精神状態で理想的な基本姿勢を表しているのは『I'm OK, You're OK』であり、ありのままの自己と他者の存在(人生・行為)を素直に受け容れて肯定的に認識している状態である。
You're OKというのは、自分の選好や価値観を無理してまで相手に合わせることではなく、自分と相手の間にある違いや対立とも正面から向き合いながら自由闊達に意見を述べ合い、相手の意見や立場を尊重することである。相手と自己との間にある埋めがたい差異や対立の存在を認めながらも、相手の存在価値は貶めないという対等な人間関係の事を指して、『I'm OK, You're OK』というのである。
人生の基本的立場は、論理的な二項図式で以下のように分類される。
1.私はOKである。あなたもOKである。=I'm OK. You're OK.……最も健全で幸福な基本的立場であり、自己と他者の存在価値を対等なものとして相互に尊重し合っている。二人の間にある問題や対立についても、真正面から向き合って建設的で実践的な対応を取っていくことが出来る。
2.私はOKではない。あなたはOKである。=I'm not OK. You're OK.……自己否定的な無力感を感じている人が持ちやすい基本的立場である。自己と他者の存在価値を相対的に比較して『自分のほうが不幸である・相手のほうが成功している』という嫉妬や羨望を抱きやすいので、前向きで効果的な問題解決を行いにくく、自罰感情が高まると自己破壊的な振る舞いをする危険性もある。
3.私はOKである。あなたはOKではない。=I'm OK. You're not OK.……他者に責任転嫁したり、他者を非難し罰することで自己の利益や満足を得ようとする基本的立場である。非行少年や犯罪者、非常識な人物、自分勝手な人など利己主義的な衝動や欲求を制御できない人に多い立場であり、自分は不当に抑圧されているとか損をさせられていると思い込む。自分だけが犠牲になって損失を受けているという思い込みがある為に、強い他罰主義や復讐感情の信念を持っていることが少なくない。幼少期や児童期に親和欲求が満たされなかったり、良好な対人関係を結べなかったりすることで、他人との信頼感や協調性が形成されなかった場合にこの立場に陥ってしまうことがある。
4.私はOKではない。あなたもOKではない。=I'm not OK. You're not OK.……人生脚本でいえば『どうせやっても駄目だ・どうせやっても無駄だ』という自己否定的な脚本に該当する立場で、自己の能力や資質を開発して問題を解決することに全く意欲がない状態である。自己の人生の成功や達成に興味がないだけでなく、他者の人生の喜びや達成にも関心がないので、他者との良好な友情や親愛関係を築くことが出来ない。他者や社会全般に対して建設的な係わり合い(コミット)の欲求がなく、慢性的な学習性無力感を抱えているので、自滅的な行動や他者への攻撃行動を取ってしまうこともある。