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2006年12月03日

[ウィルヘルム・ライヒのオーゴン・エネルギー(orgone energy)]

ウィルヘルム・ライヒのオーゴン・エネルギー(orgone energy)

ウィルヘルム・ライヒ(Wilhelm Reich, 1897-1957)は、シグムンド・フロイトの弟子として精神分析学を習得して、心理療法である精神分析と政治思想であるマルクス主義(共産主義)との創造的な統合を実現しようとした人物である。また、男性原理に基づいて運営される抑圧的な近代社会を批判し、夫唱婦随を強制する禁欲的な家父長制(パターナリズム)の家族制度を否定して、男女平等の原則に基づく『性の解放』を主張した。ライヒは、フロイトのリビドー発達理論でいう部分性欲を性器性欲に統合する『性器期(genital period)』を重視して、性的なオルガスムスの自在な体験能力が神経症を治癒して健康な心理生活を実現すると考えた。

ウィルヘルム・ライヒは、フロイト以上にリビドー(性的衝動)の発達と充足を重要視した精神分析家であり、『社会的抑圧(倫理規範)からの性の解放』と『オルガスムスを伴う性生活の充実』によって、人間の精神の健康と社会の安定が達成されるという性革命理論の提唱者でもあった。ライヒは、個人の無意識領域にある抑圧された性的欲求を言語化(意識化)するだけでは不十分であり、実際にその無意識的願望を現実生活で充足させることで、精神分析療法はより効果的なものになると考えた。

フロイトは、患者の性的願望や対人的な依存心を治療場面で満たしてはいけないという禁欲原則を説いた。禁欲原則に基づく神経症の治療では無意識的な願望を意識化していながらも、それを断念したり昇華する『エス(本能的欲求)に対する自我の強化』が必要だと考えられていたのである。

フロイトは、「快感原則への従属」よりも「現実原則への適応」を優位に置いて、社会適応性を促進する「自我の強化」こそが神経症治療に必要だと主張した。ライヒは「現実原則への適応」は本能的欲求を再び抑圧することにつながるので、「快感原則への従属」によって社会規範から性を自由に解放しない限りは神経症の根本治療は出来ないと主張した。

ライヒは次第に、正統派の精神分析理論から遠ざかっていき、性を抑圧したり罪悪視したりする社会構造や道徳意識そのものを改変すべしという革命的な立場を明らかにしていく。晩年のフロイトは、幼児性欲論や性的外傷論などの背徳的な性理論を放棄していった経緯もあり、ライヒのようなラディカル(過激)なリビドー至上主義や非現実的な性革命理論(ユートピア思想)には否定的であった。

『リビドーの完全解放によるユートピアの実現』という非現実的な革命理論を説くライヒの学説や技法に賛同する精神分析家は殆どおらず、精神分析に対する誤解や偏見を強める恐れがあるとして、ライヒは1934年に国際精神分析学会から追放された。マルクス主義を基盤とする革命思想家として意欲的な政治活動をしていたライヒも、1933年にドイツ共産党から除名されることになる。精神科の臨床医やマルクス主義の思想家として卓越した才能を持っていたウィルヘルム・ライヒだが、余りに過激で極端な性革命の思想を持っていたために、正統派の精神分析学派やマルクス主義の党派から受け容れられることはなかった。

精神分析運動から追放され、マルクス主義の革命家としての前途も絶たれたウィルヘルム・ライヒは、スウェーデンのストックホルムやノルウェーのオスロを経て、1939年にアメリカ合衆国へと亡命するが不遇な晩年を過ごす。晩年のライヒは、精神状態に若干の変調を来たして、科学的な精神療法家からオカルティックな治療家へと変貌した。

自然界に充満する宇宙エネルギーであるオーゴン・エネルギーを集積できる「オルゴン蓄積器」を開発したライヒは、オルゴン蓄積器を用いた非医学的(不合理)な治療を行って薬事法違反に問われ、裁判の場で不適切な暴言を吐いたために法廷侮辱罪で収監されることになった。ライヒは1957年11月3日に、収監されていたペンシルバニア州ルイスバーグの連邦刑務所で、その不遇な晩年の人生に幕を閉じた。

ウィルヘルム・ライヒが晩年(1930年代)にその存在を主張し始めたオーゴン・エネルギー(オルゴン・エネルギー, orgone energy)というのは、宇宙に遍く充満している根源的なエネルギーと定義された。ライヒアン・セラピー(Reichian Therapy)の理論では、オーゴン・エネルギーが適切に補給されていれば人間の心身の健康は保たれるが、オーゴン・エネルギーが枯渇すれば精神疾患が発症したり情緒不安定になったりすると考えられていた。

ライヒアン・セラピーの治療機序は、枯渇しているオーゴン・エネルギーを特殊な機器で宇宙空間から集積してクライエントに与えることである。オーゴン・エネルギーによってクライエントの生命力を活性化し精神疾患を治癒するというが、ライヒアン・セラピーは一種の宗教的療法であり、そこには、具体的な臨床効果を証明する科学的根拠は何もない。



posted by ESDV Words Labo at 08:28 | TrackBack(0) | お:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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