プリ・テスト(pre-test)と天井効果(ceiling effect)・床面効果(floor effect)
あるカウンセリングや対応・訓練の効果を調べる場合には、そのカウンセリング(対応・訓練)の事前と事後の測定値を比較する必要がある。あるカウンセリングをクライアントに実施した場合に、そのカウンセリングの事前と事後のクライアントのデータ(心理テスト・医学的検査の結果など)を取得して比較してみるという方法である。
トレーニング(訓練)を実施した場合にも、そのトレーニングの事前と事後の被験者のデータ(体力測定・生理的指標の結果など)を取得して比較してみるという事になる。ある活動や対応が実際にどれくらいの効果をもたらしたのかを調べる場合に、事前測定のことを『プリ・テスト(pre-test)』、事後測定のことを『ポスト・テスト(post-test)』と呼ぶが、プリ・テストとポスト・テストの結果を比較するだけでは実際の効果・変化を確認することはできない。
あるカウンセリングや対応・訓練の効果を測定する場合には、その測定に用いた心理テストや体力測定などの『評価尺度(測定尺度)の信頼性(reliability)・妥当性(validity)』をまずは確実に検証しなければならない。なぜなら、評価尺度の『信頼性』とはその評価尺度を他の人に対して繰り返し用いても同じ結果になるという根拠であり、『妥当性』とはその評価尺度を使って測定しようとしているものをきちんと測定できているのかの根拠だからである。
プリ・テストとポスト・テストを実施するための評価尺度(測定尺度)の信頼性・妥当性は、その評価尺度が科学的に有効(有意義)なものかどうかの基準となっている。更に、評価尺度(測定尺度)を繰り返し用いれば『平均への回帰(回帰効果)』が起こりやすくなることに注意が必要である。統計学的な『天井効果(ceiling effect)』や『床面効果(floor effect)』によって測定結果が歪められる事もある。
天井効果と床面効果は、評価尺度(心理テスト・体力テストなど)を用いた測定値の上限・下限が測定内容に与える効果のことである。例えば、最低点は0点、最高点が100点の評価尺度(各種テスト)がある場合に、100点を取った人はそれ以上の実力があるかもしれないが、100点以上の点数(難易度)がないために、そのデータを正確に測れないことがある、これを『天井効果(ceiling effect)』と呼んでいる。反対に0点を取った人は本当はもっと到達度が低いかもしれないが、0点以下の点数は取りようがないために、そのデータを正確に測れないことがある、これを『床面効果(floor effect)』と呼ぶ。
最高値付近の『天井効果』や最低値付近の『床面効果』が作用してしまうと、その評価尺度で測定しようとしている被験者のデータを正確に測れないだけではなく、複数の被験者の間にある能力・特性の差異(100点ばかりの簡単なテストでは相互の差異がなくなるなど)も明らかにすることが出来なくなるのである。