ウェブとブログの検索

カスタム検索





2012年09月12日

プロテウス的人間(Proteus man)

プロテウス的人間(Proteus man)

古代ギリシア神話のプロテウス(Proteus)は、ポセイドン以前の海神とされ、ポルキュス、ネーレウスと一緒に『海の老人』とも呼ばれる。プロテウスは古い甕絵には身体に魚の尾が付いていて、その身体から獅子や鹿、蝮などが顔を見せているという不気味な姿で描かれている。この不気味な掴みどころのない姿は、プロテウスがどんな姿にも変身する能力を持っている事を示しているという。

プロテウスは未来に対する予言能力を持っているが、その未来を知る力を行使することを嫌っており、プロテウスの予言を聞きたければ、捕まえて無理矢理にでも聞き出さねばならないという。しかし、あらゆる動物や植物、モノに自由に変身する能力を持っている為、捕まえて予言を聞くことは相当に困難である。

アメリカの精神科医であるR.J.リフトン(Robert Jay Lifton 1926-)は、この変身能力と予言能力を持つ海神プロテウスにちなんで、『プロテウス的人間(Proteus man)』という現代社会に適応的な人間類型・性格特性を提唱した。プロテウス的人間は確定的で持続的な自己アイデンティティを確立せずに、『暫定的・一時的な自己アイデンティティ』を形成することで、絶えず変化し続けている外的世界や人間関係に適応していくので、決定的なアイデンティティの崩壊や無力感(自己無価値感)を回避することができる。

自分はこのような人間であるという強いこだわりの自己規定がないので、次々と変化する環境と人間関係にも適応しやすく、新たな自己の役割を柔軟に見つけ出す事も得意であり、過去の履歴に捕われずに常に新しい可能性を探究する事ができるという長所を持つ。その一方で、プロテウス的人間は、自分の社会的な役割・活動の選択を回避したり、自分が何者であるのかを決断しない『モラトリアム状態(社会的選択の猶予状態)』に陥りやすいという問題も抱えている。

日進月歩のドッグイヤーで時間が速く流れていく現代、技術や価値観、流行の変化が激しい時代においては、プロテウス的人間は高い適応能力を発揮しやすいが、自分の社会的役割や重要な人間関係に対する自己決定を留保するモラトリアム遷延を引き起こしやすく、大人になることを恐れる成熟拒否や自分が何をすべきか分からなくなるアイデンティティ拡散になってしまう事も多い。

プロテウス的人間というのは、日本の精神分析家である小此木啓吾(おこのぎ・けいご,1930-2003)が提唱した『モラトリアム人間』と類似した概念であり、自分の役割や立場、職務を決定的に選択しないために、いつまでも自由で柔軟なスタンスを取れるのだが、その副作用として自己アイデンティティが拡散したり重要な人生の課題に対して決断できなかったりする事もある。R.J.リフトンの邦訳書には、『ヒロシマを生き抜く―精神史的考察―』(岩波現代文庫)や『終末と救済の幻想―オウム真理教とは何か-』(岩波書店)などの代表作がある。

posted by ESDV Words Labo at 08:39 | TrackBack(0) | ふ:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック