レフ・ヴィゴツキー(Lev Semenovich Vygotsky):1
レフ・ヴィゴツキー(Lev Semenovich Vygotsky,1896-1934)は、ベラルーシ出身の旧ソビエト連邦(旧ソ連)の心理学者であり、約10年間の短い研究生活の中で“アンチ精神分析(反フロイト)・アンチ行動主義心理学”の立場で実験主義的あるいは唯物弁証法的な理論の構築を行った。
特に発達心理学分野における『言語と思考の発達理論・言語獲得の理論』などで大きな業績を残しており、乳幼児期から児童期における言語と思考の発達の理論化では、現在でもレフ・ヴィゴツキーとジャン・ピアジェの研究成果は参照される事が少なくない。
ヴィゴツキー自身もジャン・ピアジェの思考発達理論からインスピレーションを得ているが、ヴィゴツキーは社会的環境と双方向のコミュニケーションが介在した言語・思考の発達を重視して、自然的かつ自生的に言語・思考が発達していくとするJ.ピアジェの『生物学的な人間観』を批判した。
ヴィゴツキーは社会構成主義者であるが、子どもの心身・言語の発達はひとりだけで自然に進むものではないということを強調した。更に、社会的環境(親子関係・子弟や友人との関係)の中で、『他者との相互作用・大人からの教育』を受けることによって初めて、実用的な言語能力の発達が進むのだと主張した。
肺結核を患ってわずか37歳でこの世を去った事から、『心理学のモーツァルト』というような評価をされることもあるが、共産主義国家だった旧ソ連のL.ヴィゴツキーが構想したのは、唯物論的な弁証法とその実験的な検証を基盤にした新しい心理学の体系化であった。そのため、当時の国際的な心理学界で大きな影響力を持っていたフロイトの精神分析、J.ワトソンらの行動主義心理学、ヴェルトハイマーらのゲシュタルト心理学などを手厳しく批判していた。