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2007年01月06日

[過剰適応症候群(over-adjustment syndrome)・会社人間症候群(syndrome of faithful employee)]

過剰適応症候群(over-adjustment syndrome)・会社人間症候群(syndrome of faithful employee)

過剰適応症候群(over-adjustment syndrome)とは、複数の人間の利害が絡み合う社会環境(職場環境)に過度に適応して、自分の自然な欲求や個人的な感情を強く抑圧することで発病する症候群のことである。過剰適応とは、周囲の環境や他人に対して自分の意見や行動を無理に合わせることであり、『周囲の気分を害する不満』を口に一切口に出さず、『会社や集団の不利益になるような個人的都合』を押し殺すことである。自分だけでなく家族の生活を維持する為に働いているサラリーマンや公務員は、必然的に過剰適応状態になりやすくなるので、周囲の上司や同僚とお互いの健康状態のチェックをしたり、不満を溜め込まないで済む風通しの良い人間関係を作ることが大切である。

会社内や官庁内に『何でも気楽に話し合える企業風土(官庁文化)』を醸成して、上司や同僚に『疲れている時は疲れているということができ、不満があれば率直に伝えられること』が理想的であるが、実際にはそういった忌憚なく話し合える上司・部下の関係や同僚関係を築くことは難しい。過剰適応症候群の具体的な症状としては、不定愁訴に悩まされる自律神経失調症のような身体各部の諸症状(身体各部の不快感・不調感・異常感・発熱・冷え)があるが、過剰適応の社会生活が長期間にわたって続くと、心臓疾患や胃潰瘍・十二指腸潰瘍、脳疾患、偏頭痛、心因性の喘息など器質的病変を伴う心身症(psycho-somatic disorder)に発展することもある。

従来、精神医学や臨床心理学では精神の健康性(正常性)の基準として、標準的な性格類型や平均的な価値観以外に『社会環境(現実状況)への適応性』を上げてきたが、「社会(他者)への適応」も程度問題であって、余りに自分を押し殺して行き過ぎた適応をしてしまうと心身の健康を害して種々の疾患を発病してしまう。過剰適応症候群になりやすい性格としては、社会的な責任感や使命感の強い人、他人との競争心が強く負けず嫌いな人、他人の評価や機嫌を気にする人、秩序志向性や他者配慮性の強い人などが上げられる。

基本的に、過剰適応症候群は『文明社会の病』であり、産業構造が複雑化されておらず貨幣経済が浸透していない未開社会では起こらない。職業上の義務や人間関係のしがらみによって『行動の自由・時間資源の配分・個人的な主張』が大きく制限される産業文明社会(管理社会)のサラリーマンや公務員によく見られる症候群であることから、会社や官庁に勤務している人の過剰適応を『会社人間症候群(over-adjustment of faithful employee)』と呼ぶこともある。

自分の喜びや快楽、要求を捨て去って集団活動に適応している過剰適応の状態では、非常に強い精神的ストレスが掛かり慢性的なフラストレーションに陥るが、このストレス状態が『個人のストレス耐性』を大きく上回った時に心身症や自律神経失調症、うつ病、燃え尽き症候群などの症状が発生してくる。会社の業績上昇と会社内での地位上昇(昇給)を最高価値として仕事に励み、企業内部での円滑な人間関係に配慮しながら働いている人の人生設計は『全てが会社中心』となる。会社で休む暇もなく身をすり減らして働き、会社の命令や指示に忠実な従業員としての態度を崩さない人は、『会社人間』を自己のアイデンティティとして精神的余裕のない人生を送る可能性が高くなる。

会社人間症候群とは、上記のような全ての価値を会社(仕事)に還元する会社人間が罹患しやすい症候群であり、時間的切迫感があり競争心と闘争心の強い「タイプA性格(タイプA型)」の人や他者配慮性が強く生真面目で几帳面に仕事をこなす「メランコリー親和型性格」の人は会社人間として過剰適応の生活を送りやすくなる。フリードマンとローゼンマンが統計学的な調査をして特定した『タイプA型』という性格パターンは、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)の発症リスクの高い性格であり、『時間の余裕がない・いつもイライラとして仕事をしていないと落ち着かない・野心的で競争心が強い・負けず嫌いで攻撃的な側面がある・積極的で押し出しが強い・地位や名誉へのこだわりが強い』などの特徴がある。

企業の営業業務(人事管理)や事務作業にIT(情報技術)が浸透して以降、企業のOA化(オフィス・オートメーション化)が急速に進んでいるが、そういったIT化の普及によるコンピュータ業務に適応できない会社人間は強いテクノストレスに晒されるようになっている。アメリカの心理学者でカウンセラーのC.ブロードは、コンピュータや情報端末、インターネットにまつわる精神的ストレスをテクノストレスと呼んだ。テクノストレスには、コンピュータの情報処理やインターネット業務に精通できずに不快なストレスを感じる『テクノ不安症』とコンピュータやインターネットの作業に依存してコンピュータに触れていないと不安や焦りを感じる『テクノ依存症(コンピュータ過剰適応型・テクノセンタード型)』とがある。

会社人間症候群の典型的な事例としてよく見られるのが、中間管理職が上司の命令と部下の突き上げにあって精神的に疲弊し切ってしまい、抑うつ感や不安感、焦燥感、思考力・集中力の低下などを訴えるケースである。産業カウンセリングなどで比較的多く見られるこのような中間管理職特有の「板ばさみのストレス状態」を、上司と部下に挟まれて懊悩する『サンドウィッチ症候群』と呼ぶことがある。

企業活動や会社文化に懸命になって適応しようとする現代人は、自分の『ストレス対処能力・問題解決能力・フラストレーション耐性』を越えた過剰適応のストレスに晒されやすい。H.フリューデンバーガー(H.Freudenberger)は、自分の気力と体力の限界を越えて無理をして頑張り続けた人が陥る極限状態を、『燃え尽き症候群』と定義した。燃え尽き症候群とは、精神的・身体的な疲弊が限界に達した状態であり、めまいや頭痛、胃痛、無気力などの心身の不調と共に、意欲の急激な減退や活力の全般的な消失が特徴的に見られる。

会社人間症候群の問題や苦痛を事前に回避する為には、『会社と自分を一体化したアイデンティティ』を弱めることが大切であり、『会社中心の価値観と生活パターン』を少し見直して休養が必要な時には思い切って休むというような思い切りが必要である。会社の仕事を一生懸命に頑張って家族の生計を支えることは当然の社会的責務であるが、時には、プライベートな家庭生活を楽しんだり、個人的な趣味の活動を満喫するというような「生活設計の柔軟さ」が求められるのではないだろうか。『会社・家族・個人の活動』へと配分するエネルギーと時間のバランスを適度に調整していくような小さな心がけが、理想的なメンタルヘルスを維持していくためにとても重要なことなのである。

posted by ESDV Words Labo at 06:56 | TrackBack(0) | か:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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