エリク・H・エリクソン(Erik Homburger Erikson):1
エリク・H・エリクソン(Erik Homburger Erikson,1902-1994)は、発達心理学分野における『心理社会的発達理論(ライフサイクル理論)』でよく知られたアメリカの精神分析家である。心理社会的発達理論(ライフサイクル理論)は、人間の生涯のプロセスを『発達段階(developmental period)』に分類して、正常な心身の発達と社会適応のために各発達段階で達成することが望まれる『発達課題(developmental task)』を示したものである。
心理社会的発達理論の『発達段階』と『発達課題の成功‐失敗』と『獲得すべき心理特性』の組み合わせは以下のようになっている。
1.乳児期(0歳〜1歳半頃)……基本的信頼感‐基本的不信感→希望
2.幼児期前期(1歳半〜3歳頃)……自律性‐恥・疑惑→意志の志向性
3.幼児期後期(3歳〜6歳頃)……積極性‐罪悪感→目的意識
4.学童期(6歳〜13歳頃)……勤勉性‐劣等感→自己効力感(セルフ・エフィカシー)
5.思春期・青年期(10代半ば〜20代前半頃)……自己アイデンティティの確立‐自己アイデンティティの拡散→『社会・他者・役割』への適応感や帰属感
6.成人期前期(20代前半〜30代頃)……親密性‐孤立→仕事や愛の獲得
7.成人期後期・中年期(40〜50代頃)……生殖性(後続世代の育成)‐自己停滞→世話
8.老年期(60〜70代以上)……人生の統合‐人生の絶望→叡智
1902年にドイツのヘッセン州フランクフルトで母親のカーラ・アブラハムセンの元に生まれたが、父親が誰であるかは不明である。この生物学的な父親にまつわる出自の謎が、エリク・H・エリクソンの自分は一体何者なのかという『自己アイデンティティ』に対する強い探究心を掻き立てたとも言われる。
エリク・ホーンブルガー・エリクソンのミドルネームである“ホーンブルガー(Homburger)”は、エリクソンが3歳の時(1905年)に母親が再婚した相手である小児科医テオドール・ホーンブルガーの名字から取られたものである。母親が再婚した後に、家族でフランクフルトからカールスルーエへと引っ越している。
エリク・エリクソンは『北欧系の容姿をしたユダヤ人』であったため、ユダヤ人のコミュニティにもドイツ人のコミュニティにも受け容れられずに、『二重の差別』によって帰属すべき民族集団を見いだせないという自己アイデンティティの混乱の苦悩を味わうことになった。自分の実父が誰なのかどこにいるのかも分からないという『複雑な家庭環境』とドイツ人にもユダヤ人にも受け容れて貰えないという『民族アイデンティティの混乱』が、エリク・エリクソンの自己アイデンティティの理論やライフサイクルにおける自己実現の思想に与えた影響は極めて大きいとされる。