エピクテトス(Epiktetos):2
ストア派の歴史区分は以下の3つに分類することができるが、前期・中期のストア派の哲学者らが書いたとされる著作は断片・引用以外には現存しておらず、後期ストア派の著作・思想からの推測に頼る部分が大きくなっている。
前期ストア派……ゼノンによる学派創設からアンティパトロスまでの時期。
中期ストア派……パナイティオスやポセイドニオスなどが活躍した時期。
後期ストア派……ムソニウス・ルフス、キケロ、小セネカ、エピクテトス、マルクス・アウレリウスなどが活躍した時期で、一般的にストア派の哲学者というとこの時期の哲学者を指すことが多い。
エピクテトスのストア主義は『非二元論の自然観』と『自然主義的な倫理観』に裏打ちされたものであり、自然と一致した意志にこそ人間が到達すべき『徳』が宿っていると考えていた。
ストア主義者は感情や衝動によって心が揺り動かされている状態を不幸だと感じるため、幸福で平静な状態に至るには、明朗であり先入観(ドクサ)のない思考を用いて普遍的理性(ロゴス)を理解することが必要だとした。その意味では、エピクテトスは禁欲主義者であると同時に理性主義者でもあり、自然から生み出された人間は貴族も奴隷もみんな平等であるとする理性的な平等主義を唱えたりもしていた。
自然的道徳によって万人の平等を説きながら、人間関係においても『憤怒・羨望・嫉妬・計略(悪意)』などの感情的な衝動・苦悩から解放されることこそが大切だと教えた。エピクテトスの哲学的な世界観においては、『自立的な個人の意志』と『統一的・決定論的な世界のあり方』とを前提にし、中立的で乱れない思考で普遍的理性に到達すれば、どんなに大変で過酷な状況にあっても人間は常に落ち着いていて幸福だという結論になる。
エピクテトスは破壊的な衝動を克服して道徳的・普遍的な理性にまで行き着くことができれば、『病むときも幸福で、危機の内に在るときも幸福で、死を迎える時にも幸福で、追放されたときにも幸福で、恥辱を受けた時にも幸福』であると述べており、究極的な理性的世界観を自然的な自意識に統合することに人間の救済を求めていた。
『自省録』を残した古代ローマ帝国のマルクス・アウレリウス帝(五賢帝の一人)が禁欲的・倫理的なストア主義に人間の理想的な生き方を見出していたように、ストア派は物質的・権勢的な幸福に満足することができない『知的エリート階層』の主流派を形成する精神的救済を説く哲学になっていた。
この項目の内容は、『エピクテトス(Epiktetos):1』の続きになっています。