ゲシュタルト療法のホットシート(hot seat)
フリッツ・パールズとローラ・パールズの夫妻が創始したゲシュタルト療法(Gestalt therapy)では、『想像上の他者(過去に関わりのあった重要な人物)』や『もう一人の自分(人格構造の一部分)』をイメージしたロールプレイング(役割演技)が積極的に実施されている。ホットシート(hot seat)はゲシュタルト療法におけるロールプレイング法の一種であり、またクライエントが座る空間的な場所のことを直接指すこともある。
『対話ゲーム』という実践的なエクササイズにおいてホットシートが用いられることが多いが、対話ゲームはそれを見守ってくれる参加者がいるという集団療法的(グループセラピー的)な環境で行われることが多い。ホットシートと呼ばれる席に自分が座って、それに向き合う席の位置に『自分が対話したい(対話すべき)相手』のイメージを想像して座らせて、あたかもそこに実際のその相手が座っているかのようにして対話を展開するのである。
自分が座っている椅子が『ホットシート』と呼ばれるが、ホットシートの前に置く現実には誰も座っていない椅子が『エンプティ・チェア(空の椅子)』となる。エンプティ・チェア(empty chair)には誰も座っていないが、そこに実際に自分が対話しようとしている『自分にとって重要な意味や影響力を持つ他者』が座っていると仮定した上で、心理的効果が期待できるロールプレイングを進めていくのである。
ホットシートとエンプティ・チェアを用いたゲシュタルト療法のロールプレイングは、『過去の深刻なトラウマ(心的外傷)となっている出来事・他者』をテーマにしたり、『自分が十分に話したいことを話せないような苦手意識のある相手』との対話を中心にして展開したりすることが多い。エンプティ・チェアに座る相手は父親や母親であったり、親友や恋人であったりするが、いずれにしても『自分にとって重要な意味を持つ相手』であり『簡単には忘れることができない印象や影響を残していった相手』なのである。
ホットシートを用いたカウンセリングは、個人療法というよりは集団療法(グループセラピー)として実施されることが多く、ワークショップの勉強会などで実技指導されることも多い。クライアントとカウンセラー、他のメンバーという三者が相互に影響を及ぼし合うのである。また、ホットシートとエンプティ・チェアのロールプレイングの治療機序は、『抑圧された感情・不満・欲求の解放』にあるので、恥ずかしがったり遠慮したりせずに、自分が本当にその相手に伝えたいことを率直に言葉に出していくことが大切である。