ポリオ(polio)
ポリオ(polio)は正式名称を急性灰白髄炎(きゅうせいかいはくずいえん,poliomyelitis)といい、ピコルナウイルス科エンテロウイルス属に分類されるポリオウイルスの感染症である。ポリオは一般に『脊髄性小児麻痺(小児麻痺)』と呼ばれる疾患だが、5歳以下の小児が発症者全体に占める割合が9割以上となっており、基本的には子供が罹患する感染症の疾患である。
ポリオは夏から秋にかけての季節に感染リスクが高くなる。成人にも感染例はあるがその発症率は極めて低い。ポリオウイルスによって脊髄が炎症を起こすと、手足が麻痺するという症状が残るが、脳性麻痺とは異なり脳機能や知能そのものは障害されないという特徴がある。1960年代以前には毎年かなりの数のポリオ(脊髄性小児麻痺)が発生していたが、1961年に不活化ワクチンの定期予防接種が開始されてからは激減した。日本では1980年に野生株によるポリオ感染が無くなったと考えられており、1980年以降はポリオの自然感染の症例は一件も確認されていない。
1980年以降は、経口生ポリオワクチンの定期接種による感染例しか報告されておらず、そのために『ワクチン接種を初めからしない』という親の増加が見られていたりもする。日本国内ではポリオウイルスの野生株による『麻痺性ポリオ』の患者は1980年以後は一人も出ていないが、海外渡航時にポリオ感染のリスクがあることなどから、厚生労働省はポリオワクチンの接種を勧めている。
日本国内では自然感染のリスクがなく、逆に経口生ポリオワクチンを接種したために、その副作用として麻痺性ポリオを発症するリスクがあることから、微毒化した『生ワクチン』ではなく、毒性を除去した麻痺の副作用がない『不活化ワクチン』の需要が高くなっている。日本は生ワクチンが予防接種の主流だったが、麻痺性ポリオのリスクに対する国民の不安・不満の声を受けて、2012年9月1日から予防接種が生ワクチンから不活化ワクチンへと切り替えられた。生ポリオワクチンの接種後に麻痺を発症したと認定された事例は、1989年〜2008年までに80件となっている。
ポリオウイルスの感染経路は『便』であり、大便からさまざまな経路で経口感染し、消化管から神経組織へとウイルスが移動して胃炎・麻痺などの症状を引き起こす。消化器でのウイルスの潜伏期間は約1〜2週間であり、嘔吐・下痢・胃痛などの消化器症状がでやすく、それ以外にも頭痛・発熱・だるさ(倦怠感)など流行性感冒に似た症状が出てくる。
発熱・胃炎などの先駆症状が1〜4日間程度続いてから、足・腕に力は入らなくなる弛緩性の麻痺が起こってくる。その麻痺症状は『左右非対称性の弛緩性麻痺』としての特徴を持つ。脊髄性小児麻痺が重症化すると、横隔膜神経・延髄の麻痺が起こって呼吸不全による死亡リスクまで出てきてしまう。手足に出てきた麻痺は、10〜20%程度の確率で生涯にわたって残り続けてしまう。
ポリオの治療の中心はワクチン投与による事前予防であり、一旦発症してしまうと特別な治療法は存在しない。ポリオ性麻痺の治りにくい症状に対しては、『マッサージ・電気療法・運動療法・温浴療法』などのリハビリテーションを実施して、少しでもその麻痺の程度を軽くすることを目指すことになる。