ホームワーク・アサインメント(homework assignment)とカウンセリング
ホームワークとは自宅でする宿題のことであるが、カウンセリング(心理療法)のセッションでもその後に自分でするべき宿題が出されることがある。カウンセリングのセッション(心理面接)で出される『クライエントが自分ですべき宿題・課題』のことを、『ホームワーク・アサインメント(homework assignment)』と呼んでいる。ホームワーク・アサインメントは、カウンセリングや心理療法における段階的な『セルフトレーニング(自己訓練)の処方箋』としての役目も果たすが、次のような意味を持っている。
1.カウンセリングの見立てにおける仮説の検証と効果の確認
カウンセリングではクライアントの主訴や問題に対して、どのような心理的・環境的な原因によってその問題(悩み)が引き起こされているのかを推測し、その仮説に基づいて『問題あるいは原因を解決するためのホームワーク・アサインメント』を提示するのである。
パニック障害で電車やバスに乗れないというクライアントに対して、まずは電車(バス)に乗るために駅(バス停)まで歩いて行き、その時の心理的な緊張感・不安感を体験して記録しておくというホームワークを出したりする。段階的に電車・バスに乗る距離を増やしていき、パニック発作が起きない程度の緊張感・不安感の苦痛に慣れさせていくという系統的脱感作法のホームワーク・アサインメントにつなげていくのである。
社交不安障害(対人恐怖症)においても、『他人がいる場所に出かけていく』『他人にまず一言だけでも挨拶をしてみる』『ファストフードやカフェなどのお店で注文をしてみる』といった比較的簡単なホームワーク・アサインメントを出してから、段階的にある程度の時間の会話や言いたいことを言えるようになる自己主張のホームワークへと発展させていくことになる。クライアントが何に悩んでいてどうしてそれが克服できないのかの見立て(仮説)を立ててから、そのクライアントの主訴・悩みの解決に向かうホームワーク・アサインメントを出すというやり方は『行動療法』で多く用いられている。
2.認知療法のワークシート記述のようなマニュアル化されたセルフモニタリングと自己治療
ホームワーク・アサインメントの最も重要な意味は、クライアントが自分自身の心理状態や問題発生の仕組みを理解して、その解決に効果的に取り組めるようになるような宿題(課題)を出すということである。認知療法(認知行動療法)においてクライアントに書いてもらう『ワークシート(生活行動記録表)』は、クライアントの自己理解と問題解決を目的とするホームワーク・アサインメントの典型的な宿題である。
ワークシートの課題では、日常生活で起こった出来事・問題とその時の自動思考・認知(考え方)の特徴を記録して貰い、自分で自分を落ち込ませたり無気力にさせたりする認知の歪み(非適応的な認知)を修正するとっかかりを作るのである。ワークシート(生活行動記録表)のホームワーク・アサインメントに取り組むことで、クライアントは自分がどのような状況や出来事によって気分が落ち込んだりイライラしたりするのかを正確に理解できるようになり、『自分で自分を肯定して勇気づけるための認知(物事・相手の捉え方)』を分かりやすい文章の形で学習していくことができる。
自分ひとりだけで記録しているとワークシートに書き込むのが面倒になりがちだが、『ワークシートに記載した内容』を次のカウンセリング(心理療法)でカウンセラーと一緒に話し合うというリズムを形成することで、ホームワーク・アサインメントの継続性とその効果が守られやすくなるのである。