気質(temperament)とクレッチマーの気質類型論
パーソナリティ心理学(性格心理学)では、人間の性格の構成要素として『遺伝・体質・気質・性格・人格』を考えるが、気質(temperament)とは性格の基盤にある情動的性質(感情的な基本性向)であり、性格よりも遺伝要因(先天的要素)の影響を強く受けている。気質と体質・遺伝を不可分なものと考える場合もあるが、一般的に気質は、生得的・生化学的に規定される遺伝や体質よりも後天的(経験的)な要因の影響を強く受ける。
人間の性格(character)の基盤にある『気質(temperament)』を構成する代表的な因子としては、『気分(爽快‐抑うつ)・刺激感受性(敏感‐鈍感)・精神活動性(積極的・消極的)・攻撃性(攻撃的‐防衛的)・テンポ(速い・遅い)』などを想定することができる。『気質』と『精神病理』の類縁性に着目した臨床研究を進めたドイツの精神科医に、チュービンゲン学派のエルンスト・クレッチマー(Ernst Kretschmer, 1888-1964)がいる。
エルンスト・クレッチマーは多数の臨床事例の観察を通して、体型・気質・病前性格(精神病理を発症しやすい性格)との間にある相関関係を発見し、体型性格理論(気質類型論)を提起した。クレッチマーの体型性格理論(気質類型論)は、ユングの『外向性・内向性』と『思考・感情・感覚・直感』を組み合わせたタイプ論と並んで有名な類型論である。
クレッチマーの気質類型論は、『細長型‐分裂気質‐統合失調症(精神分裂病)』『肥満型‐循環気質‐躁鬱病(双極性障害)』『闘士型‐粘着気質‐てんかん』の3つの類型で表される体型性格理論である。現在の精神医学の実証主義的な研究では、体型(体格)と気質と精神疾患の間には有意な相関関係はないとされているが、クレッチマーの気質類型論は芸術的直感に基づいたもので、日常的に観察される人の性格類型では当てはまるように感じる場面も多い。
細長型の分裂気質の特徴は、『物静かで非社交的であり、融通が効かない。偏屈で奇妙な振る舞いや規則に強迫的に従う傾向が目立つ』というものである。肥満型の循環気質の特徴は、『温厚で社交的であり、明るく快活だが、時に陰鬱で物静かになり気分が落ち込んでいる』というものである。闘士型の粘着気質の特徴は、『頑固で融通が効かず、一つの物事にこだわる傾向があり、時に爆発的な興奮や怒りを見せる』というものである。クレッチマーは、器質性精神病の科学的な分類と機序の解明でも大きな功績を残した精神科医である。