J.D.クルンボルツ(John D. Krumboltz)2:キャリア・デベロップメントの要因
クルンボルツが想定した学習経験は、大きく『道具的学習経験(オペラント的学習経験)』と『連合的学習経験』とに分けられる。道具的学習経験は上記したように、その人が現在まで経験してきた『先行子』が初めにあって、『本人の行動の生起(強化・消失)』が起こり、それが『結果(キャリアカウンセリングでは職業選択)』につながるという3段階によって説明される。
連合的学習経験は、中立的な出来事に対して強い感情・気分が結びつくことによって進められる学習経験であり、例えば『喜び・悲しみ・恐怖・ショック』などの激しい感情と結びついた出来事は記憶されやすいのである。
J.D.クルンボルツは後年に認知行動療法(CBT)にも関心を持つようになり、アルバート・エリスのABC理論に基づく論理療法(論理情動行動療法)のコンセプトを『学生の職業指導相談(就職支援)・キャリアカウンセリング(キャリア・デべロップメント)』に応用した。
アルバート・エリスは『イラショナル・ビリーフ(非合理的な信念)』によって問題行動や不適応(精神症状)が起こると考えたが、クルンボルツはA.エリスのイラショナル・ビリーフに相当するものとして『厄介(面倒)な信念』という概念を採用したりした。
カウンセラーとしてのクルンボルツの意欲は、クライエントの精神疾患や不適応問題を対象とする『臨床心理分野のカウンセリング』ではなくて、クライエント(主に学生)の進路選択や就職活動、職業キャリア形成を対象とする『職業指導相談・キャリアカウンセリング』に向けられていたのである。
クルンボルツは職業選択の後のキャリア形成(キャリアアップ)について、『キャリア・デベロップメント(career development)』という概念で表現したが、職業選択やキャリア・デベロップメントを規定する要因には以下の4つがあるとした。
1.先天的な資質
2.環境条件や出来事
3.学習経験
4.課題へのアプローチ・スキル(意思決定スキル)
『先天的な資質』というのは、外見・体格・運動能力・知能・才能などの『遺伝的要因』に近い生まれながらの適性であり、この先天的な資質そのものを後天的な学習・努力によって変えることは難しいとされる。『環境条件や出来事』とは場所・気候・社会規範・労働条件・雇用情勢・ジェンダーなどの『環境的要因』であり、これらも先天的な資質と同じく自分の力で変えることが殆どできない要因である。
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