パソコン・OA機器の長期使用による頸肩腕症候群(cervical syndrome)
頸肩腕症候群(けいけんわんしょうこうぐん, cervical syndrome)は、パソコンのディスプレイ(画面)とキーボードの長時間利用などによって発症する職業病の一種であり、医学的には『同一姿勢の保持・手指の長時間使用・長時間のOA機器の利用・超過勤務』を原因とする過労性疾患に分類される。情報化社会への産業構造の急速な変化によって、日常業務で長時間パソコンを使用する業種が増えており、そういった職業分野では現代病(職業病)としての認知が高まっている。
早期発見と早期治療によって首・肩・腕の痛みや腫れ・痙攣などは改善するが、完治に至るのは難しく長い治療期間を必要とすることも少なくない。ITが普及した当時のアメリカでも、ホワイトカラーのRSI(反復性ストレス障害)が問題となったが、頸肩腕症候群もRSIの一種であり、日本では職業上の過労によって発症したと診断されれば労災を申請することもできる。頸肩腕症候群は、職業上の慢性疲労や過労による筋・骨格の損傷が原因なので、頸肩腕症候群を理由として会社が配置換えを行うことは許されるが、この疾患を理由として解雇や退職を勧奨することはできない。もし、解雇された場合には、労働基準法に違反する不当解雇に相当することになる。
“頸肩腕”症候群と言うように、この病気の自覚症状は『首・肩・腕・手指』などを中心に現れ、一般的には『首の痛み・首の痙攣・肩こり・腰痛・背中の痛み・手指の痛み・手指の振るえ・頸肩腕のしびれ』などの主訴を訴える患者が多い。仕事でパソコンを使い長い時間ディスプレイを見つめている人の場合には、眼精疲労や眼のかすみ・痛みを訴える人も多く、その場合にはVDT(Visual Display Terminal)症候群と呼ばれる眼に症状のでるテクノストレスを疑う必要も出てくる。
VDT症候群(ヴィジュアル・ディスプレイ・ターミナル)とは、パソコンの普及によって生まれてきたテクノストレスを原因とする症候群の一つで、眼・肩・精神に症状が出るものである。VDT症候群は頸肩腕症候群とオーバーラップ(重複)することも多い現代病だが、パソコンのディスプレイ端末を長時間連用することによって眼の充血やドライアイなどを引き起こし、悪化させると視力の低下の原因となることもある。
頸肩腕症候群の『肩こり・腰痛・手指のしびれ・首の痛み』などの症状は、整形外科や心療内科の領域の疾患と似通っている場合もあるので、整形外科や心療内科の診断・治療で納得できなかったり治療効果が見られない場合には、頸肩腕症候群を疑って医師に相談してみると良い。心療内科では、頸肩腕症候群の症状は『自律神経失調症・心身症・不定愁訴・更年期障害・うつ病』などで診断されることも少なくないが、精神症状よりも身体症状のほうが強く出ていて向精神病薬の服用で改善しない場合には、整形外科など他の診療科の意見も求めてみるべきである。
頸肩腕症候群は、首・肩・腕の慢性疲労や過労による損傷が原因となって起こる病気だが、その診断・治療は「症状が出ている部位の特定」と「重症度の正確な判定」を行ってから、症状と重症度に合わせた治療方針を患者と相談して決めていくことになる。一般的な頸肩腕症候群の治療法としては、湿布など消炎剤を用いた薬物療法やマッサージや筋肉の牽引を行う理学療法、鍼や灸を用いた鍼灸療法(カイロプラクティック)、最新レーザー機器を用いたレーザー治療などの選択肢がある。