アドラー心理学の目的論(teleology)
後半生のアルフレッド・アドラーは、自身の個人心理学をベースにした『アドラー心理学(Adlerian Psychology)』を創設して、それまでの精神分析とは異なる勇気づけと共同体感覚を重視した心理療法を展開した。
アドラー心理学に基づいた心理学者・心理療法家(サイコセラピスト)のことを『アドレリアン』と呼ぶこともあるが、アドレリアンはフロイディアン(フロイト派の分析家)とは違って原因探求をせず、『目的論(teleology)』の立場でクライエントの問題解決を支援していく。
アドラー心理学の目的論は、『精神疾患・問題行動・不適応の原因』を掘り下げて問わないということを意味しており、『問題・病気の原因』を取り除こうとしたりもしない。目的論は人間のすべての行動・症状・関係性には何らかの『目的性』が内在しているという考え方をするので、精神疾患や問題行動に対して心理療法を行う場合にも、『疾病利得を含めた主観的な目的』を敢えて問うというスタンスを取ることになる。
誰でも精神疾患や不適応状態(不登校・ひきこもり)になりたくてなったわけではないのに、その目的を探したり問うたりするのは馬鹿げているし無礼ではないかという反論もある。だが、A.アドラーは人生全体を『自分の主観的な目的を達成しようとするプロセス』と定義しており、病気や不適応であっても『何らかの理由・目的』があって主体的に選択された結果と解釈するのである。故に、アドレリアンは精神疾患や問題行動、不適応になっている人を哀れんだり悲しんだりするというスタンスを持たず、『その人にとっての苦悩・葛藤の結果としてある現状』をありのままに尊重したり、その状態の創造的(目的論的)な意味づけをしたりする。
アドラー心理学の心理療法は『再決断療法』とも呼ばれることがあるが、それはA.アドラーにとっては精神疾患や不適応状態さえも『本人が主観的な目標を追求して決断した結果』だからであり、その『主観的な選択・決断(あるいはその背景にある信念・価値観)』を新たに変容させることができれば、その精神疾患や問題状況を十分に改善させることができると考えていたからである。つまり、主観的な決断やその背景にある信念を、効果的に変容させるための新たな意思決定のプロセスこそが、イコール『再決断』なのである。
アドラー心理学では『過去の原因・経緯(どこから来たのか)』を問題にすることはなく、『未来の目的・意味(どこへと向かうのか)』を第一において質問していく技法を採用しているが、過去に執着することをやめて現在から未来へと意思を向け変えていくことは、アドレリアンに限らず現代の多くの心理療法の技法にも共通しているポイントである。