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2013年10月31日

[小此木啓吾のモラトリアム人間(moratorium personality):1]

小此木啓吾のモラトリアム人間(moratorium personality):1

精神分析の自我心理学で社会的精神発達論を考案したエリク・エリクソン(E.H.Erikson, 1902-1994)は、青年期の発達課題である“自我アイデンティティの確立”をするまでの社会的責任(社会的・職業的選択)を猶予されている目的の模索の期間を『モラトリアム(moratorium)』と名づけた。

モラトリアムというのは元々は経済学の用語であり、『債務支払の猶予期間』という意味であるが、発達心理学では『社会的・職業的な自己決定の猶予期間(社会的に何者でもない曖昧な自分に留まろうとする期間)』といった意味で使われている。

精神科医・精神分析家の小此木啓吾(おこのぎけいご,1930-2003)は、自分の職業活動や社会的役割を主体的に選択することができずに、モラトリアムの期間を遷延(長期化)させてしまっている人のことを現代の自由主義社会・管理社会に特有の『モラトリアム人間(moratorium personality)』として定義した。

個人の自由や選択が拡大して『年齢ごとの規範・義務』が緩くなった現代社会では、自分の社会的・職業的な位置づけを定めようとしないモラトリアムの状態にある人が増える傾向にあり、職業選択や進路決定に迷う青年期の人たちだけに特有の心理状態・行動様式とは言えなくなっている。

モラトリアム人間には青年期にある若者もいれば、中年期にあるおじさん・おばさんもいるのであり、『自分の人生における社会的・職業的な選択や決定(自分が果たすべき社会的役割・責任の引き受け)』ができずに、何に集中して取り組めば良いのか、自分が何をやりたいのかが分かりにくい心理状態に陥っている。

モラトリアム人間には社会規範に抵抗するような『反社会的パーソナリティ』の人もいれば、経済社会や職業活動そのものに関心が持てずに自分の内面(空間的な自宅)に引きこもる『非社会的パーソナリティ』の人もいる。

現代社会では、“ひきこもり・ニート・ネット依存症・新型うつ”などの非社会的パーソナリティのモラトリアム人間(他者・社会・仕事と深く関わる生産的な生活を自ら望まないような自己完結型の価値観や性格傾向)のほうが増えていると推測されるが、経済的な困窮や将来不安の焦燥感を抱えていない場合には、こういった非社会的なモラトリアム人間の主観的苦悩(積極的に現状を改善したいという動機)は一般に弱い。

企業の終身雇用や結婚(家庭)の安定性が崩壊し始めていることもあり、中高年の人であってもリストラや転職、離婚、別居などを契機として、『自分の人生・仕事の目標(生きがい)』を見失うことになり、次に自分が取るべき行動の選択基準や自分がやりたいことが分からなくなってしまう。

その結果、うつ病や適応障害などの精神疾患を発症してしまったり、『長期間のモラトリアム(社会的責任を履行できない猶予期間)』に陥ってしまうことは珍しくないのであり、現代のモラトリアムの適用範囲は非常に幅が広くなってきている。



posted by ESDV Words Labo at 08:57 | TrackBack(0) | も:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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