ロバート・ジェイムズ・ハヴィガースト(Robert James Havighurst)と発達課題:1
アメリカの教育学者・心理学者であるロバート・ジェイムズ・ハヴィガースト(Robert James Havighurst)(Robert James Havighurst, 1900-1991)は、発達心理学と教育心理学の分野で多くの理論的貢献をした。ドイツ系移民の子孫であるR.J.ハヴィガーストは、アメリカ合衆国ウィスコンシン州の町ディペレ(Depere)に生まれ、1924年にオハイオ州立大学で物理化学の博士号の学位を取得している。
R.J.ハヴィガーストはポスドクでハーバード大学のフェローとして働いていたが、1924年にウィスコンシン大学物理学部の助教授に就任してから、次第に教育学の分野に活動の舞台を移していった。ロックフェラー教育財団に勤めるようになった頃から、教育学・発達心理学が物理学に代わるハヴィガーストの専門分野になっていく。1940年に、シカゴ大学の教育学教授に就任して、児童発達研究部門で研究に従事することになり、人間の心身発達や教育問題に精力的に取り組んだ。
R.J.ハヴィガーストの最大の功績は発達心理学の分野で、『発達段階に対応する発達課題(developmental task)』の概念を提唱したことである。発達課題とは、個人が健全な心身の発達を遂げて社会に適応するために、発達段階のそれぞれの時期に達成することが期待されている課題(能力・役割)のことである。
ハヴィガースト本人による発達課題の定義は、『発達課題とは人生の各発達段階の時期に生ずる課題で、それを達成すればその人は幸福になり、次の発達段階の課題の達成も容易になるが、失敗した場合にはその人は不幸になり、社会から承認されず、次の発達段階の課題を成し遂げることが困難になる課題』というものであり、発達課題は個人の幸福追求・社会適応(他者からの承認・社会的役割)と密接に結びつけて考えられていた。
発達課題の源泉となる要因には、大きく分けて以下の3つがある。発達課題には、身体的成熟・生物学的条件によって各発達段階で必然的に発生する『普遍的な発達課題』と国家・民族・文化・法律・価値観などによって達成すべき課題が変わってくる『特殊的な発達課題』とがある。歩行・摂食・言語などをはじめとして多くの発達課題には、それを達成するために最適な時期がある。一方で、発達課題の中には人生を通してずっと終わることのない課題や、青年期・中年期・老年期(人生の節目)になって改めて反復的に取り組まなければならない課題もある。
1.身体的成熟……生物学的な器官(脳)の発達、身長の伸び、体重の増加などによって各発達課題が要請される。
2.文化・社会からの要請……その人が帰属している文化・社会から、『〜すべき・〜するのが良い・〜が当たり前』という形で各発達課題が要請されたり、『学校教育の普及・職業活動の高度化(技術化)』によって新たな発達課題が求められたりする。
3.個人の価値観や要求水準……進学や職業の選択・配偶者の選択・ライフスタイルなどのように、個人の価値観や要求のレベルによって各発達課題が要請される。