チェスター・バーナード(Chester Barnard)
アメリカの電話会社社長で経営学者のチェスター・アーヴィング・バーナード(Chester Irving Barnard, 1886-1961)は、科学的管理法のフレデリック・テイラーと並んで評価されている組織論・システム管理論の古典的な経営学者である。
チェスター・バーナードは1938年に著した主著『経営者の役割(The Functions of the Executive)』において、企業で働く労働者を初めて『企業の部品的な道具(命令に従うだけの存在)』ではなく『自由な意思を持つ個人(自発的に協働しようとする存在)』として扱ったとされる。バーナードのいう『組織』とは意識的に調整された2人以上の人間の活動と諸力の体系を指している。その組織を生産的かつ効率的に成立させるためには、以下の3要件が必要となる。
1.共通の目的……『企業の目的』と『自分の目的』との間に共通性や納得感があること。企業の経営理念や営業目的(価値創出)に対して、その実現に自分も協力して貢献していきたいと思わせる『目的・価値観の共通性』があること。
2.貢献意欲(協働意志)……組織のメンバーは、自分と共通点のある『組織の目的』を達成するために、積極的に貢献しようとする意欲を持っていなければならない。組織のメンバー同士は、組織の目的や自分の目標を達成するために、お互いに助け合って働く協働をしなければならない。『自分がした貢献』よりも『組織から与えられるもの』が大きい時には、特に高い貢献意欲が引き出されることになる。
3.コミュニケーション……組織内で正確な情報を伝達して共有し、その情報を元にしてメンバー間の意思疎通(対話・交流)を円滑にしていること。コミュニケーションが活発で円滑な組織は、自分と他のメンバーとの『共通の目的』を認識しやすくなり、お互いが協力し合って組織・仲間のために頑張ろうという貢献意欲(協働意志)が引き出されやすくなる。
チェスター・バーナードは、人間が最も重視するのは『動機(モチベーション)の充足』だと考え、動機が満たされずに自己犠牲(負担)ばかりが強いられる組織は、『個人の意欲・モチベーションの低下』で必然的に衰退していくとした。
組織を構成する個人が『能動的な貢献意欲』を持ち、メンバーの仲間たちと協力・協働する時に、組織の生産的なパフォーマンスが高まることになるが、バーナードは組織が安定的に存続するためには『有効性・能率・目的』が必要だと述べている。バーナードの組織論でいう有効性(effectiveness)とは『目的達成の基準』であり、能率(efficiency)とは『満足の基準』のことだと定義されている。
組織におけるメンバーの協働体系を長期間にわたって継続させてモチベーションを保つには、『経済的報酬・物質的満足・快適な環境』だけでは不可能であり、『目的の共通性と納得感+他のメンバーとのコミュニケーション』が必要になってくるとした。
個人のモチベーション(動機づけ)を充足させるために重要になるのは、分かりやすい経済的報酬(金銭・財物)ではなくて、経済力・金銭とも相関している『優越・威信・個人の影響力・支配的地位』なのである。金銭・財物はお金やモノそのものの価値が求められているのではなくて、金銭や財物(商品)によって得られることもある『優越・威信・影響力・地位』といった社会的欲求の充足のほうがより求められているからである。
組織は単純で小さな組織でも複雑で大きな組織でも、常に『調整と統一の原理』を持っていて、共通の目的を達成するために効果的なコミュニケーションと人格的なモチベーションが要請されている。組織の生産活動には有効性と能率も必要となる。
チェスター・バーナードは企業の経営や組織の管理、効率的なシステムを研究した経営学者であるが、バーナードの理論の中心にあるのは『働く人間のモチベーション・貢献意欲・コミュニケーション』であり、その意味において行動科学的な経営学を構想していたとも言えるだろう。