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2007年04月29日

[ゲシュタルト心理学(gestalt psychology)とゲシュタルト療法(gestalt therapy)]

ゲシュタルト心理学(gestalt psychology)とゲシュタルト療法(gestalt therapy)

フリッツ・パールズ(F.S.Perls)ローラ・パールズの夫妻が創始したゲシュタルト療法(gestalt therapy)については、過去の記憶や情緒に振り回されない「今」の原則(principle of the now)について述べ、ゲシュタルト療法の人格理論である「5つの層理論」についても説明を加えた。

K.ケーラーやW.コフカ、M.ヴェルトハイマーらが創建した人間の知覚特性や認知傾向を中心に取り扱うゲシュタルト心理学派とパールズのゲシュタルト療法には直接的な関係性はないが、ゲシュタルト(gestalt)とは仮現運動などに代表される「まとまりのある全体性(秩序のある構造)」という意味である。つまり、ゲシュタルト心理学とはそれまで科学的心理学の主流であったヴントなどに代表される要素還元主義的な構成主義・連合主義のアンチテーゼであり、科学的心理学に全体的な現象把握と力学的な理論構成という新たな枠組みを与えた心理学の潮流である。

ゲシュタルトという概念自体を始めて提唱したのは心理学者マイノングの弟子として知られるクリスチャン・フォン・エーレンフェルス(1859-1932)であり、エーレンフェルスは音楽のメロディ研究から一つ一つの部分としての音符が全体としてまとまりのあるメロディになることを発見してこの現象をゲシュタルト質(形態質)と命名した。ゲシュタルト質とは、「部分の総和以上の性質を持つ全体」ということであり、ゲシュタルト質は幾ら詳細に要素(部分)を分析しても全体として生み出される法則的な性質にたどり着くことが出来ないとされた。

ゲシュタルト心理学ではレヴィンの壺(多義的なだまし絵)を題材とした「地と図の関係」や、同じ文字を長時間見つめ続けると意味が分からなくなる「ゲシュタルト崩壊」などの研究成果が知られている。ゲシュタルト心理学は、一般的に、人間の知覚特性(物体認知の法則性や体制化)に関する科学的研究を取り扱ったが、ゲシュタルト療法では、過去の記憶や情動に執着せずに「今、ここから」始めて心の直感的・感覚的・身体的な全体性(ゲシュタルト)を回復することが心理療法の目的とされた。

ゲシュタルト(全体性・形態)とは、部分の単なる総和(集合)としての全体ではなくて、部分の総和以上の特性(機能・法則)を示す全体性のことであり、ゲシュタルト療法は全体を部分に分解しようとする要素還元主義や人間を科学的に理解して操作しようとする機械論的人間観を否定するものである。ゲシュタルト心理学は、知覚心理学の分野から研究が始まったが、それ以降、記憶機能を取り扱う学習心理学や思考過程を理解する実験心理学などにもゲシュタルト心理学的な研究手法が応用されるようになった。今日ではゲシュタルト心理学派の勢力は極めて弱くなっているが、アメリカでゲシュタルト心理学が隆盛していた時期には、人間の行動の形成過程を理論化したクルト・レヴィンやK.ゴールドスタインといった著名なゲシュタルト心理学者が登場した。

フリッツ・パールズが主導したゲシュタルト療法は実存主義哲学の影響を色濃く受けており、その影響が「今、ここでの気付き」に現れ、カウンセラーとクライエントとの面接場面での出会いを一期一会の「実存的なエンカウンター(出会い)」と捉える独特な見方を生んだ。ゲシュタルト療法と精神分析のような力動的心理学を比較すると、ゲシュタルト療法は「言語的な分析や解釈(言葉で語り合い理解すること)」ではなく「身体的な体験や感覚(実際にやってみて身体で感じること」を重視する体験的技法(気づきの技法)である。パーソナリティやコミュニケーションの障害に関しては、精神医学的な診断・統計マニュアルであるDSM−Wを用いることにも否定的である。

ゲシュタルト療法では、(薬物療法が妥当と思われる精神疾患や器質的障害を除いて)心理アセスメントによる診断と医学的な治療よりも、非言語的なコミュニケーションやありのままの自然な感情の表出に治療効果があると考えている。ゲシュタルト療法が理想とする人間観は「身体と精神が調和的に成熟した人間」であり「今、ここからの人生を懸命に生き抜く人間」である。「私は私のやるべきことをやり、あなたはあなたのやるべきことをやる」といった実存主義的かつ個人主義的な人間観に基づいた人生を意欲的に生きるような方向へと支援するのが原則である。

この「自分自身であることを忘れずに、自分自身の人生を生きよ」という原則を「今」の原則と合わせて、「ゲシュタルトの祈り」と呼ぶこともあるが、ゲシュタルト療法では他者への依存や執着を乗り越えて人格が統合された「全人的な存在(whole person)」へと自分を向上させていくことになる。

posted by ESDV Words Labo at 06:11 | TrackBack(0) | け:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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