ロロ・メイ(Rollo May)と実存主義療法:1
アメリカの心理学者ロロ・メイ(Rollo May,1909-1994)は、クライエントの内面心理や自由意思(生きる意味への志向性)を重視する『実存主義療法』を紹介したパイオニアである。
メイは当時影響力を強めていた客観科学的(実証主義的)な『行動主義心理学』を批判して人間の心理的苦悩を根本的に解決するためには、『科学的な理論(実験・観察による法則の定立)』ではなく、『人間的な存在・意思の原理(生きる意味への志向性)』からアプローチしなければならないと主張した。
オハイオ州エイダに生まれたロロ・メイは、ミシガン州立大学とオベリン大学で学んでギリシアへ渡って教職に就職したが、精神分析への強い興味があって、ウィーンで開催されていたアルフレッド・アドラーのセミナーにも積極的に参加していた。1938年にアメリカに帰国して牧師になるためにユニオン神学校で学んでいる時に、教師だったパウル・ティリッヒと出会って親友のような親密な交遊を深めていくことになる。
しかし、精神分析や心理学への知的好奇心を抑えることができず、牧師を辞めてコロンビア大学の教育学部(心理学を学べる学部)に入学した。在学中に結核に罹って18ヶ月もの間、療養生活を強いられたが、その時にS.フロイトやセーレン・キルケゴールの著作を読んで思想的な影響を受けたという。
1949年に、コロンビア大学教育大学院で臨床心理学博士号(Ph.D)を取得して、ハリー・スタック・サリヴァンやエーリッヒ・フロムらが設立した『ウィリアム・アランソン・ホワイト精神分析研究所』に就職した。1971年には、サンフランシスコに『ヒューマニスティック心理学研究所(セイブルック大学院・研究センターへと発展する研究施設)』をカール・ロジャースやアブラハム・マズローと一緒に創設している。
ロロ・メイはA.アドラーや新フロイト派の精神分析のトレーニングを受けていた履歴もあるが、メイ自身は精神分析家としてのキャリアをただ深めるだけではなく、実存主義療法(実存分析)や人間性心理学の研究・実践にも注力した。学派の分類では、ロロ・メイはカール・ロジャーズやアブラハム・マズローと並ぶ『ヒューマニスティック心理学(人間性心理学)』の代表的な心理学者である。
ロロ・メイは研究者が外部から客観的に観察する『行動』よりも、クライエント本人が主観的に認識する『内面心理(感情・意思)』のほうが、カウンセリングの効果を発揮するために重要であると考えた。ロロ・メイが研究して臨床的に実践した実存主義療法は『実存分析』という名称で呼ばれることもある。
クライエント本人が主観的に認識する内面心理は、実存主義療法ではV.E.フランクルの唱えた『意味への意志』につながっている。更にロロ・メイの心理療法のベースにあるのは、クライエントの人格・人生を無条件に肯定的に受容し尊重するというカール・ロジャーズの『クライエント中心療法』の基本的態度である。
メイは『自己への気づき(セルフ・アウェアネス)』を治療方略として掲げたが、実存主義療法は外圧的な刺激・強制(条件づけ)による自己変革ではなく、今まで気づくことができなかった本当の自分に気づくことが一つの目標になっている。実存主義療法では、ヒューマニスティック心理学が高次の目標に設定している『自己実現』も重視されているが、それと合わせて『潜在的な可能性の開発』が自己成長やエンカウンター(相互理解に根ざす真実の人間関係)につながると考えられている。
ロロ・メイは新フロイト派の精神分析家でもあったことから、潜在的な可能性の源泉が『無意識(エスの領域)』にあると仮定しており、エーリッヒ・フロムやウィルヘルム・ライヒ、ハーバート・マルクーゼの『フロイト左派』と同じように、理性優位・感情抑圧の近代文明(非自然主義の理性・物質・貨幣に支配された近代文明)に対して批判的であった。

