カール・マンハイム(Karl Manheim)と『イデオロギーとユートピア』:2
マンハイムの知識社会学では、ある特定の知識・思想を人々が信じて受け入れる社会的状況・社会階層の分化の特質を分析すると同時に、ある特定の知識が大勢の人々に受け入れられることによって社会的状況や価値観も必然的に変化を続けていくという『知識・思想と人間社会の相互作用』を意識している。
カール・マンハイム(Karl Manheim)と知識社会学:1
マンハイムはマルクス主義の史的唯物論に必ずしも批判的というわけではないが、組織・階層集団の利害から解放された自由な知識人(インテリゲンチャ)の研究によって、党派性の利害や知識改竄の呪縛からある程度離れた客観的真理に迫るような研究(=特定の階層・集団の利益に拘束されない一般的妥当性のある知識を検証・確立する研究)ができると考えていた。知識社会学とは、党派性や社会階層の利害を離れた一般的妥当性のある社会史・イデオロギー史(思想史)の研究分野だと言える。
カール・マンハイムの主著『イデオロギーとユートピア(1929)』では、人間の知識・思想の存在拘束性を前提にして、人間の思想・知識を単なる『個人的な信念・経験』ではない『歴史的・社会的状況との相関関係』の中で把握して確立しようとしているのである。著作の表題になっている“イデオロギー”と“ユートピア”という観念は、マンハイムにとってはいずれも人間の社会階層や集団の利害、社会的立場に拘束された『虚偽意識』と呼ばれるものでもある。
“イデオロギー”は、社会構造における支配的階級の集団の現状維持(自分たちに有利な状況の維持)を認めようとする『虚偽意識』だとされている。イデオロギーとは、『集団の過去の社会的条件の慣習』に規定された思想とも言うことができる。
“ユートピア”は、被支配的階級の集団が自分たちが虐げられている(自分たちが劣位に置かれている)現状を否定しようとする『虚偽意識』だとされている。ユートピアとは、『集団の未来の社会的条件の予測』に規定された思想とも言うことができる。
K.マンハイムが構想した近代的ユートピアは、『至福千年説のユートピア(宗教信仰・聖書解釈に基づく狂信的な理想郷)』『自由主義・人道主義のユートピア(近代思想の自由主義や人権思想を発展拡張していった先にある誰も傷つけられない理想郷)』『保守主義のユートピア(現在の国家や社会の実力から見て十分に実現可能性がある目的を目指す理想郷)』『社会主義・共産主義のユートピア(共産主義革命の勃発とプロレタリアート独裁による科学的社会主義に基づいた誰も搾取されない貧困のない理想郷)』の4つの類型であった。