フルールノアとエレーヌ・スミスのヒステリー研究1:霊媒師・心霊術師のトランス状態
19〜20世紀のヨーロッパの精神医学では、神経症(neurosis)の一種である『ヒステリー』を主要な研究対象の一つにしていた。
ヒステリーの精神病理学と治療方法の研究・実践で非常に大きな実績を上げたのが、神経医学の権威で催眠療法を行っていたジャン・マルタン・シャルコーや精神分析の創始者で催眠とは異なる自由連想法・夢分析を推奨したジークムント・フロイトであった。
ギリシア語の子宮を語源とするヒステリーは、当時女性だけにしか発症しない精神疾患という誤解・偏見を持たれていたが、実際には男性であっても発症する可能性がある疾患である。19〜20世紀にかけて女性のヒステリーやヒステリー性格の症例の方が男性よりも多かった理由の一つは、社会の支配的価値観(男性社会の常識感覚・家父長制)と結びついたジェンダーや性道徳の抑圧感(自分の本当の気持ちや欲望を押し殺さなければならない比率)が、男性より女性に強かったからである。
ヒステリーというのは、精神的原因によって『四肢の麻痺・失語症・失立・幼児性・感情の不安定・誘惑性・夢遊病・白昼夢・被暗示性』など多種多様な心身症状を呈示する疾患であり、一般的には人格構造や精神状態の不安定さ・神経の過敏さを意味することも多い。初期のヒステリー研究は、患者が異常なトランス状態(変性意識状態)に入る特徴に注目して、オカルティックな霊媒師・心霊術師を臨床研究や治療の試みの対象にすることも少なからずあった。
フロイトと訣別して分析心理学を創設したカール・グスタフ・ユングの初期の師の一人に、スイスの心理学者フルールノア(Flournoy)がいるが、このフルールノアも霊媒師が霊魂に憑依されていると主張する時の幻想的でオカルティックなトランス状態(変性意識状態)に強い興味を持っていたという。