前田重治の『臨床心理士と精神科医の特徴』の差異と比較
臨床心理士の専門的な知識・技術・素養は、『非関与的観察に基づく心的現象・心的能力・精神障害の多面的な知見』に支えられているが、精神分析や心理療法を実践する段階においては『関与的観察(参加観察)に基づく共感的・受容的な態度とクライエントとの相互作用』のほうがより重要になってくる。
精神科医と臨床心理士(臨床心理学者)の職業領域の区分と相互的な連携
関与的観察においては、心理臨床家の主観とクライエントの主観との間の共通理解や共感感情を探り合う形で、現象学でいうところの『間主観的体験』というものが生じてくる。
臨床心理学者・精神分析家の前田重治(まえだしげはる,1928〜)は、『臨床心理士と精神科医の特徴の比較』ということでその差異を以下のように整理している。前者の特徴の項目が臨床心理士、後者の特徴の項目が精神科医である。
クライエント(患者)に対する理解……心理主義的かつヒューマニスティックにクライエントを捉える。『適応‐不適応の判断基準』の立場に立っている(臨床心理士)・実証主義的かつ科学的・医学的に患者を捉える。『病気‐健康の判断基準』の立場に立っている(精神科医)
診断・見立ての仕方……内面的な生活歴・人生のプロセス・人格構造・人間関係(親子関係)を理解するためにインテイク面接や心理テストを実施する(臨床心理士)、外見的な生活歴や客観的な症状を聞き取って『病歴・既往』をまとめながら、時に直感的・経験的な診断を行うといったところがある(精神科医)
治療関係・態度……共感的・非指示的な態度を保っており、社会的責任の少ない『患者中心主義』を実践している(臨床心理士)、指導的・権威的な態度を保っており、社会的責任がやや重い『医療中心主義・管理主義』を実践している(精神科医)
技法・研究・考え方の特徴……心理テストの解釈を前提にして、『カウンセリングや心理療法』を駆使した面接を行う。研究面では心理・行動の数値化が進められ統計的処理の技術も求められるようになっている(臨床心理士)、カウンセリングではない指示的・説得的・支持的な『ムンテラ』が行われており、実際の治療においては向精神薬の薬物療法が主流になっている(精神科医)