P.マリー(P.Marie)とH.ヘッド(H.Head)の神経心理学的な非局在説(全体説)
神経心理学における『失語症の機能局在説』を否定した神経学者・心理学者としてはP.マリー(P.Marie)もいるが、P.マリーは『ブローカー失語症(話せない運動性言語障害)』の存在を否定して、特殊な知的障害を基盤に持った『ウェルニッケ失語症(言葉が理解できない知覚性言語障害)』が存在するだけだという独自の主張を行った。
カール・ゴルトシュタイン(Kurl Goldstein)の全体説と『範疇的態度(カテゴリー的態度)の喪失』
H.ヘッド(H.Head)も失語症の基盤にあるのは、『脳の機能局在的な障害』ではなく『脳の象徴形成能力の全体的な障害』であるとして、局在説に批判的な態度を取った。H.ヘッドが象徴形成能力としたのは『象徴(表象)の形成と表現』に関係する能力のことであり、失語症を持っている人は自らの内面世界に象徴(表象)を形成したりそれを表現することができないために、言葉を適切に理解できないし話せないのだろうと考えたのである。
K.ゴルトシュタインやP.マリー、H.ヘッドといった神経心理学・脳病理学における『全体論者(非局在説者)』の基本的スタンスは、人間の精神機能には脳の特定部位の働きだけには還元できない『全体性・統合性』があるという姿勢であり、『部分的要素には還元しきれない全体性(部分の総和以上の全体)』というコンセプトは、ゲシュタルト心理学と共通する考え方でもある。
現代の科学的な神経心理学では、脳の特定部位と各精神症状(各身体症状)との間に全く固有の相関関係などはないという『極端な全体説(非局在説)』については概ね否定されている。しかし、すべての心身症状の原因が『脳の特定部位の損傷』によって説明できるというほどの『確実かつ精密な機能局在性』があるわけではなく、『脳のマッピング(脳地図の作成)』もまだ不完全な状態にある。