ハインツ・ハルトマンの自我心理学と『自我(エゴ)の適応』
精神力動論(psychodynamics)に基づく精神分析では、『精神の健康性(人格の正常性)』は外的な環境や他者に社会的・道徳的に望ましい形で対応するという『自我(エゴ)の適応』によって維持されていると考える。
精神分析・精神力動論と『連続性の原理(continuity principle)』
精神分析の創始者であるジークムント・フロイトは、自然科学主義的な態度に依拠して理論を提唱しており、『自我の適応のモデル』になったのは多様で可変的な自然環境に適応して生存・生殖を維持しようとする『進化論的・生物学的なモデル』だとされている。
“自我と適応”の観点から人間の精神現象や精神発達を研究した精神分析家に、『自我心理学』を実質的に創始したハインツ・ハルトマン(Heinz Hartmann, 1894-1970)がいる。
ハインツ・ハルトマンは、人間が各発達段階でどのくらいシビアな環境に適応を求められるのかという『平均的に期待される環境』の概念を提起して、『個体のストレス耐性・問題解決能力(ストレス対処)』と『適応環境のストレスの強さ・過酷さ』によってその人の適応・不適応が決まると考えた。
H.ハルトマンの自我心理学で環境適応の主体とされているのが『自我(エゴ)』であるが、社会的精神発達論(漸成発達図式)で知られる精神分析家のエリク・エリクソン(E.H.Erikson, 1902-1994)である。