適応障害(Adjustment Disorder)とハンス・セリエの適応症候群のストレス学説:1
心理的・社会的ストレスが原因となって、職業的・学業的・対人的な能力が大幅に低下したり、社会生活や日常生活が一時的に送れなくなったりするストレス反応性の精神疾患を『適応障害(adjustment disorder)』という。
適応障害は『ストレス障害』の一種に分類されているが、生死の危険に関わるような深刻なストレスが原因となって発症するASD(急性ストレス障害)やPTSD(心的外傷後ストレス障害)とは異なり、『仕事・家庭・人間関係の一般的なストレスや苦痛・重圧』によっても発症することがある。
適応障害の原因となる心理社会的ストレスの代表的なものとしては、『仕事上の負担・叱責・責任(重圧)』『家族関係の不仲・DV・虐待(モラハラ)・別離』『対人関係や恋愛関係の悩み・葛藤・不安・別離』などが想定されるが、自分自身の存在価値や生きがい、自尊心を否定されるような言動・非難によっても発症する恐れがある。
精神疾患の発症を説明する『素因・ストレスモデル』では、本人の遺伝的素因(脳内の情報伝達系などの生物学的な脆弱性)に加えて、『ストレス耐性・問題対処能力・対人スキルの限界』を超える外的ストレスが加わることで、適応障害が発症すると考えられている。
適応障害の原因となる『ストレス(stress)』とは何かについて、カナダの生理学者ハンス・セリエ(H.Selye 1907-1982)は『汎適応症候群(GAS:General Adaptation Syndrome)』のストレス学説の立場から説明した。
ストレス(stress)とは、有害な外的刺激であるストレッサー(ストレス因子)がもたらす『生理的・心理的な歪み』であると同時に、その歪みを元に戻して再適応しようとする『生理的・心理的な復元力(生体恒常性のホメオスタシスの現れの一つ)』のことである。ストレッサー(ストレス因子)は、『物理的・化学的・生物学的・精神的なストレッサー』に分類されている。
物理的ストレッサー……暑さ・寒さ・明るさ・圧力・痛み・うるささなど。
化学的ストレッサー……化学物質・薬剤・環境ホルモン・酸やアルカリなど。
生物学的ストレッサー……細菌・ウイルス・カビなど。
精神的ストレッサー……仕事の悩み・家族の問題・学校の悩み・人間関係の対立や別離・対象喪失・経済的な不安・将来不安など。