適応障害(Adjustment Disorder)とライフイベントのストレス:2つのストレス対処法
ストレスを引き起こす環境変化のストレッサー(ストレス因子)は、大きく『ライフイベントのストレス(life event stress)』と『日常生活のストレス(daily stress)』の2つに分けることができる。
適応障害(Adjustment Disorder)とハンス・セリエの適応症候群のストレス学説:2
ライフイベントのストレスというのは、人生の節目や区切りの大きな出来事として訪れる『進学・就職・結婚・出産・子育て・離婚(大切な人との別れ)・近親者の死』などに伴って感じるストレスのことである。日常生活のストレスというのは、毎日の生活や仕事、学業、人間関係(恋愛・交遊)などの中で感じるストレスのことである。
ライフイベントである別離や死別に伴う代表的なストレス因子として『対象喪失』があり、対象喪失の悲哀感・絶望感・虚無感を回復するための心理的な仕事を指して、ジークムント・フロイトは『喪の仕事(mourning work)』と呼んだ。行動主義・行動療法の心理学者として知られるR.S.ラザラス(R.S.Lazarus)は、ストレスに対処する方法として『外的な問題対処型』と『内的な情動対処型』の2つを上げている。
『外的な問題対処型』というのは、恋人と喧嘩して落ち込んでいる時に、直接的に恋人に『謝罪・説得・説明』などのコミュニケーションでアプローチして、二人の恋愛関係を実際(外的)に解決してしまおうとするような対処方法のことである。『内的な情動対処型』というのは、恋人と喧嘩して落ち込んでいる時に、その抑うつ感・不安感・恐怖感などの内的な情動に焦点を当てて、そういった情動を認知的・感覚的にセルフコントロールしようとする対処方法のことである。
R.S.ラザラスが取り上げた『外的な問題対処型』と『内的な情動対処型』の対処方法の分類は、S.フロイトが精神内界を持つ人間にとっての現実のあり方を二つに分類した『外的リアリティ(知覚して行動することのできる外部的な現実)』と『心的リアリティ(表象して想像することのできる内部的な現実』にも対応したものである。
人間は『自然環境・社会環境・対人関係』に適応しようとするが、その適応方略(適応のやり方)には『環境そのものを自分に合うように作り変える方略』と『自分自身を環境に合わせるように自己調整して変えていく方略』とがある。
人間は物理的あるいは空間的に実在する環境に適応しようとするだけではなく、時間的(歴史的)・文化的・情報的(ウェブ的)な環境にも多元的に柔軟に適応しようとするし、個人の内的な精神世界にある理想・幻想・空想・願望などの心的環境にさえも自己調整して適応しようとする部分を併せ持っている。