PTSD(心的外傷後ストレス障害)の歴史とトラウマの原因になる出来事
PTSD(Post Traumatic Stress Disorder)とは、本人のストレス耐性や問題対処能力を越えた強烈なストレス(生死や存在意義に関わるような非常に強いストレス)を受けた後に発症することのある精神疾患である。PTSDは一般的に『心的外傷後ストレス障害』と訳されているが、心的外傷は『トラウマ』と呼ばれることも多い。
生死の危険を感じるようなストレス、自分の存在意義が根底から否定されるようなストレスのことを『トラウマ(trauma)』と呼んでいる。アメリカの精神医学の記録では、トラウマ関連のストレス障害の歴史は、1871年にJacob Da Costaが“On Irritable Heart”の中で書き残した『南北戦争の体験者』にまで遡ることができるのだという。
古典的で歴史的なPTSDと思われる典型的な症例には、ナチスドイツがホロコースト(ユダヤ人虐殺)を実行したアウシュヴィッツ(強制収容所)の生存者、第二次世界大戦の悲惨な戦場体験をした元軍人(退役軍人)などを考えることができる。第二次世界大戦以後では、ベトナム戦争の帰還兵が『ベトナム後症候群(Post Vietnam Syndrome)』と呼ばれる残酷行為・恐怖体験を追体験するような“フラッシュバック”を主症状とする精神障害に苦しめられた。
レイプやDV(家庭内暴力)の被害に遭った女性のトラウマ症候群、交通事故・自然災害の被害者のトラウマ症候群にも注目が集まり、それらの主症状として挙げられたのは『フラッシュバック(恐怖体験の反復的なイメージによる追体験)・パニック発作(不安発作)・トラウマ関連の事物や類似した人物の回避傾向・過覚醒と睡眠障害・集中困難』などの精神症状であった。
PTSD(Post Traumatic Stress Disorder,心的外傷後ストレス障害)という精神疾患としての病名が正式に採用されたのは、APA(アメリカ精神医学会)が1980年に編纂したDSM-Vの中の診断分類であった。