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2015年04月23日

[愛する人の死による“死別反応”と“モーニングワーク(喪の仕事)の分類”]

愛する人の死による“死別反応”と“モーニングワーク(喪の仕事)の分類”

近親者や親しい恋人・親友を死によって失った時、多くの人は通常の対象喪失とは比較にならないほどの激しいショックを受けて深刻な抑うつ感や無価値観、無力感、絶望の思いに沈み込んでしまい、時には後追い自殺の希死念慮にまで駆られてしまうことがある。この近しい対象・他者の決定的な喪失(=死)によって生じる心理的反応を特別に『死別反応』と呼んでおり、精神医学的には死別反応は急性ストレス反応に似た各種の心身症状を引き起こす。

表面的に見られる死別反応の症状としては、『抑うつ感・憂鬱感・気分の落ち込み・焦燥感・不安感・パニック・絶望感・興味と喜びの喪失・思考力や判断力の低下・無気力・無力感・億劫感・希死念慮』などうつ病と似通った症状がある。死別反応はDSM-W-TRでは、精神障害(精神の病気)ではない『愛する人の死に対する反応(bereavement)』と定義され、『臨床的関与の対象となることのある状態の追加』として分類されている。

大うつ病性障害(単極性のうつ病)は死別反応とは区別されており、DSM-W-TRでは『大うつ病性障害の症状は死別反応ではうまく説明できない。すなわち、愛する者を失った後、症状が二ヶ月を越えて続くか、または著明な機能不全、無価値への病的な囚われ、自殺念慮、精神病性の症状、精神運動制止があることで特徴づけられる』と鑑別診断について記されている。

死別反応とは、主に近親者の死を経験して残された家族(遺族)、恋人・親友の死を経験して残された人などに対して起こりやすい急性ストレス反応であるが、喪失した相手との関係性が濃密で情緒的・依存的であればあるほど、その死別反応は激しくつらいものとなり、うつ病に似たその心身症状も長く続きやすくなってしまう。死別反応に襲われた人のモーニング(mourning,喪)の仕事には、以下のようなプロセスや類型が想定されている。

1.予期されたモーニング(喪)

末期がんや老衰の進行などで、愛する者の死の到来が避けがたい確実なものとして予期される時、愛する者との死別を覚悟した人は、臨死患者と類似の心的プロセスを体験しながら、死別反応に対する心の準備を無意識的に整え始めている。近親者や恋人・親友などの死が予期されている状況では、かなり強い精神的ストレスがかかっており、そこに仕事・家事・学業・進路選択などの負担が重なると、その人のストレス対処能力を越えてしまって自分が心身疾患を発症してしまうこともある。

2.正常なモーニング(喪)

愛している者と死別した時には、人はまずその死の現実、決定的喪失の到来を何とかして『否定・否認』しようと試みる。しかし、客観的な死の現実を否定することは不可能であり、決定的に相手を失ったことを認識して激しいショック(衝撃)を受け、一時的に『無感情・無感覚(感情の平板化・茫然自失の状態)・パニック状態(混乱と戸惑い)』に陥りやすくなってしまう。

そこから時間が経過すると、『悲哀・不安・罪悪感・怒り・絶望・落胆』といった激しい情動が起こりやすくなるが、そういった激しい情動を泣いたり怒ったり叫んだり愚痴ったりすることによって表現し解放することで、カタルシス効果(感情浄化の効果)が得られやすくなる。

モーニング・ワーク(喪の仕事)は、ありのままの情動を表現・発散することによる“カタルシス効果”、自分の率直な感情や考え、思い残しを親しい人に話して共感・同情・慰撫してもらう“バディ効果(仲間との共感効果)によって段階的に進められていくのである。

正常なモーニング(喪)の仕事では、死別の否認、死別した相手への思慕や依存・執着、死別した相手への恨みつらみ・訴え、同一化、再生の懇願や理想化、後悔と罪悪感、罪悪感からの償いの思い、死者への恐怖と哀愁など、さまざまな心理的体験が複雑かつ情緒的に積み重ねられていき、『喪失した他者への愛情・執着心・依存心・思い残し・不平不満』が段階的に整理されて納得し受容できるようになっていくのである。

モーニング(喪)の病理

1.時期遅れの喪(delayed mourning)……愛する者を失った時には、自分だけではなく周囲もパニックに陥っていて葬儀の準備などに忙しく追い立てられることも多いので、『喪の仕事(モーニングワーク)』を進めにくい状況も多くなる。

そういった場合には、葬儀が終わって一息ついた後に、どっと激しい抑うつ感や絶望感、無価値観などに襲われる『時期遅れの喪』が発生することがある。また、時期遅れの喪の感覚が感じられる前には、『躁的防衛(manic defense)』や心身症の身体症状が偽装的に出現していることが多いとされる。

2.慢性化した喪(chronic mourning)……正常なモーニングワーク(喪の仕事)は、概ね愛する人の死別後2ヶ月〜1年くらいで『死の現実の受容・納得』に近づいていき、死別反応としての心身の病的に見える症状は緩和・治癒していく。

だが、病的な『慢性化した喪』の状態になってしまうと、死後1年以上が経過しても心身症状が慢性的に続いてしまう。特に、配偶者の死による死別反応は長期化・慢性化しやすい傾向があり、中高年男性が妻と死別した場合には慢性化したうつ病のような疲弊状態(自己否定・希死念慮の状態)に陥るリスクが高くなってしまう。

3.記念日・命日への反応(anniversary reaction)……故人と関係する記念日や命日を強く意識することによって、未練や悲しみ、罪悪感が強まってきたり、悪夢を見たり手足の振るえ、呼吸困難などの心身症が出たりするストレス反応のことである。

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posted by ESDV Words Labo at 16:54 | TrackBack(0) | も:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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