境界性パーソナリティー障害(BPD)の“理想化・こきおろし”に見る対人関係の不安定さ
恋人や家族といった親密な他者から見捨てられること(無関心になられること)を避けようとする異常で狂気的な努力は、時に自分を見捨てれば私は自分で自分を傷つける(自分で自分の存在を消してしまう)という『自傷行為・自殺企図の脅迫的行為』となってしまうこともある。
境界性パーソナリティー障害(BPD)のDSM-Wの診断基準と人間関係・気分の不安定さの特徴
BPDの人は、自分を愛してくれそうな人や自分の精神・生活の世話(ケア)をしてくれそうな人を見極めて、急速に接近して関係を深めていきその相手を過度に理想化する傾向がある。しかし、BPDの対人関係は非常に不安定で激変しやすいものであり、特に自分が思っていたような愛情・保護・世話(ケア)を相手が与えてくれない時には、激怒したり罵倒のこきおろしをしたりしやすくなる。
この対人関係や対人評価の極端な変化はBPDの典型的な特徴の一つとされており、『理想化とこきおろし(理想化と幻滅)』や『賞賛と罵倒』のようなキーワードでその対人評価の急激な転換(=良い人から悪い人への評価の変化や手のひら返しの態度)が説明されている。恋人や家族を手放しで賞賛して褒めちぎっていたかと思えば、少しでも自分の思い通りにならない相手の一面が見つかると急に態度を豹変させて、同じ相手を口汚く罵ったり人格・生き方・価値観を完全に否定したりするのである。
自分がどのような人間であり、自分が何をしたいか(何をすべきか)が分からずに混乱したり無気力化するという『自己アイデンティティの拡散』もBPDに見られやすい特徴である。特に、自分の自己愛や依存心を満たしてくれている人間関係が上手くいかなくなったり、信頼していた他者が精神的なケアや生活面の面倒を見てくれなくなった時にこの自己アイデンティティの拡散が起こりやすくなる。
これは『他人から愛される(他人から面倒を見てもらえる)自己イメージ』によって、自分の存在価値を『共依存的な関係性』の中で支えているBPDの人が多いことを意味しているのだが、境界性パーソナリティー障害の人と健康な人との共依存的なカップルのことを、精神科医の小此木啓吾らは『ボーダーライン・カップル』と呼んだりもしていた。
ボーダーライン・カップルでは、相手からの愛情や保護、世話に依存できなくなったBPDの人は、『激怒発作・こきおろし・幻滅と抑うつ』などを経験した後に、まるで自分がこの世界に存在していないかのような『自己アイデンティティの拡散・消滅』の感覚を感じるようになる。
相手との人間関係を修復することができずに、自己アイデンティティの拡散が長引いてくると、『無気力・抑うつ・悲哀感・絶望感』と共に『自己無価値感(自分がこの世界で生きている価値や意味が分からなくなるという自己否定の感情)』に苦しむようになってしまう。