DSM-W-TRのパーソナリティー障害(人格障害)の分類とディメンジョン分類
パーソナリティー障害と精神病の臨床的な鑑別診断では、『統合失調症の陽性症状を中心とする急性期』や『うつ病の意欲減退・無気力・無関心を中心とする人格変容(精神運動制止)』との鑑別が重要になってくることが多い。アメリカ精神医学会(APA)が編纂する国際標準化したマニュアル診断のDSMに、パーソナリティー障害(人格障害)が採用されたのは『DSM‐Vの多軸診断』からである。
DSMのパーソナリティー障害(人格障害)の分類とエピソード的(挿話的)な発症プロセス
1980年のDSM‐Vでは精神疾患全般の分類を網羅的にカバーして診断項目を列挙するために、第1軸〜第5軸までの『多軸診断』を採用することになり、その第2軸に『パーソナリティー障害(人格障害)』が配置されることになったのである。DSM-Vでは11のパーソナリティー障害のタイプが挙げられ、1986年に改訂されたDSM‐V‐Rでは更に2つの新たなパーソナリティー障害が付録として付け加えられた。
DSM-V‐Rを更にブラッシュアップして、パーソナリティー障害の種類を絞り込んだ1994年のDSM‐W‐TRではパーソナリティー障害が以下の10種類に分類されることになり、現在では基本的にこの名称と分類が用いられることが多い。『10種類のパーソナリティー障害』は、以下のように分類されている。
クラスターA(A群)……『奇妙な思い込みや風変わりな行動』を特徴とする人格障害の群
妄想性パーソナリティー障害……被害妄想につながりやすい不信感や猜疑心、悪意ある解釈を特徴とする人格構造の偏り。
統合失調性パーソナリティー障害……他者(人間関係)に対する興味関心の欠如や感情表現の乏しさを特徴とする人格構造の偏り。
統合失調型パーソナリティー障害……現実と空想の境界線が曖昧に感じられる奇妙な行動や発言、認知・知覚の歪みなどを特徴とする人格構造の偏り。
クラスターB(B群)……『不安定な感情や対人関係と衝動的な行動』を特徴とする人格障害の群
自己愛性パーソナリティー障害……特別な賞賛や評価、待遇を求める過剰な自己愛と他者の道具的な利用(共感性の欠如)を特徴とする人格構造の偏り。
境界性パーソナリティー障害……不安定な気分・感情、見捨てられ不安、自己アイデンティティの拡散、自傷行為・自殺企図などを特徴とする人格構造の偏り。
演技性パーソナリティー障害……演技的な行動や発言によって他者の注目・承認を集めようとする不安定な情緒も併せ持つ人格構造の偏り。
反社会性パーソナリティー障害……サイコパスやソシオパスと呼ばれることもあるが、他者の生命・権利などを無視する反社会的行動パターンを示し、犯罪行為を行っても罪悪感・後悔を感じることがないような人格構造の偏り。
クラスターC(C群)……『慢性的な不安感・強迫性や依存性の強い行動パターン』を特徴とする人格障害の群
回避性パーソナリティー障害……他者との人間関係を求めながらも、否定的・拒絶的な反応を恐れて他者との関わりを回避しようとする人格構造の偏り。
依存性パーソナリティー障害……自分で責任を負わなければならないような選択・決断を回避して、力のありそうな他者に依存しながら自分の世話をしてもらおうとする人格構造の偏り。
強迫性パーソナリティー障害……完全主義や統制感、細部のこだわりが強くて、何かを完全にしなければならないという強迫観念を特徴とする人格構造の偏り。
現在では、DSM‐W‐TRに基づくパーソナリティー障害の整理分類だけでは不十分と言われることも多く、最新のDSM-5のように複数の性格傾向の数量的なレベル(量的な度合い)に注目した『ディメンジョン分類(dimensional method,dimensional diagnosis:次元的分類)』を採用した理論も提唱されている。