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2015年06月04日

[パーソナリティー障害の治療法と“bio-psycho-social model”の基本原則]

パーソナリティー障害の治療方略と“bio-psycho-social model”の基本原則

パーソナリティー障害の人の心理療法的・カウンセリング的な治療では、他の精神障害や心理的問題(悩み)と同じく、心理療法家(カウンセラー)とクライエント(パーソナリティー障害の人)との間に『ラポール(相互的な信頼感・安心感)』を形成することがまず大切になる。

パーソナリティー障害(人格障害)の人は、他者に対する不信感や緊張感が強くて、情緒的に落ち込んだり動揺(混乱)したりしやすいので、初期の段階で心理療法家がラポールを形成することで、その後の心理療法(カウンセリング)のセッションに対する動機づけを高めてスムーズに話し合いを進める関係性の土台を作りやすくなる。

パーソナリティー障害の特徴の一つは、自らの人格構造の歪みや性格傾向の偏りに対して、つらいとか居心地が悪いとかいう『自我違和感』を感じにくいということがある。つまり、自分で自分の性格傾向の異常性や社会生活への不適応感について自覚することが難しいために、『自分の性格行動パターンについて悩んで相談したいと思うこと』がほとんどないということである。

パーソナリティー障害の人の、自分の性格上の偏りに対する自覚の無さ(自我違和感の無さ)あるいは自分の性格傾向(人格構造)に対する悩みの無さは、『パーソナリティー障害の人の治療の動機づけの低さ』につながっている。それは、パーソナリティー障害の人は、自分から自分の性格特性や人間関係に悩むことがなく、自分から進んで精神科・心療内科・心理療法家(カウンセラー)を訪ねて治療を受けたいと思うことがほとんどないということを意味している。

パーソナリティー障害の人に対する『インテイク面接(受理面接)』では、まず段階的に心理療法家(カウンセラー)がラポールを構築していくことが課題になる。その場合には初めからいきなり『人格構造の歪みの問題点』から話題に入るのではなく、『日常生活・人間関係の中での小さな悩みや不満点』などについて受容的な柔らかい態度で話し合いを進めていくと、パーソナリティー障害と関係するさまざまな問題や性格上の特徴が浮かび上がりやすくなってくる。

パーソナリティー障害の治療法には、エビデンス・ベースドな定型的な方法論があるわけではなく、基本的には『バイオ‐サイコ‐ソーシャルモデル(bio-psycho-social model)』を参照した総合的な治療法略が試行錯誤(経過観察)を通して進められていくことになる。具体的にいうと、『生物学的アプローチ‐心理的アプローチ‐社会的アプローチ』を患者の特徴や適性、経過、反応の良さに合わせて適切に組み合わせながらパーソナリティー障害の有効な治療法を模索していくということである。

『生物学的アプローチ』とは、端的には中枢神経系に作用する向精神薬を用いた薬物療法であり、『妄想性・統合失調型・統合失調質のパーソナリティー障害』のように思考・認知機能に障害が出ていれば、メジャー・トランキライザー(抗精神病薬)を少量だけ用いたりする。『境界性・回避性・依存性などのパーソナリティー障害』でうつ病のような抑うつ感や気分の落ち込みが見られたり、不安感・緊張感が強かったりする時には、各種の抗うつ薬・抗不安薬が処方されることも多い。

『心理的アプローチ』とは、心理療法・精神分析やカウンセリングを用いた治療的なアプローチのことであり、現在では主に認知行動療法や対人関係療法、交流分析などを用いた心理療法の介入が行われることが多い。パーソナリティー障害には、遺伝要因や脳の器質的要因(生物学的要因)も関係しているので、いくら心理療法を行っても性格基盤や人格構造そのものを根本から矯正することはできないのだが、『クライエントの社会生活・人間関係への適応性』を高めることを心理療法の目的に据えている。

見捨てられ不安が強く、対人評価が極端に変わりやすい境界性パーソナリティー障害のクライエントに対しては、心理療法家は『一貫した専門家としての態度』と『透明性のある分かりやすい対応の基準』を維持しながら、クライエントの不安感を和らげるような保証・支持を与えたり、訴えに対して共感的理解を示したりする。

しかし、境界性パーソナリティー障害の治療において重要なのは、『ここまでは共感・支持するが、これ以上の要求や依存は受け容れられないという明確な境界線の設定』であり、このことは心理療法家が境界性パーソナリティー障害の人の感情・気分の波に振り回されて疲弊しないためにも大切なことである。

他者とのコミュニケーションや人間関係に消極的で、心理療法のような対人場面をできるだけ回避しようとする『統合失調質・統合失調型・回避型などのパーソナリティー障害』に対しては、他者の批判・拒絶を恐ろしいと感じる思いや人を避けてひきこもりたい欲求に共感的理解を示しながらも、『自分とのカウンセリングの時間を対人コミュニケーションの練習として活用することの意義・効果』を説得的に語るようにすることが大切である。

『社会的アプローチ』というのは、パーソナリティー障害の性格特性や対人ストレスに合わせた『社会的・対人的な関係調整』のことであり、パーソナリティー障害の人の家族や親しい関係者も含めて『クライエントの適応性・安心感を高めるための環境調整や心理教育』を推し進めていくことになる。また、公共的な病院の診療科あるいは公的機関の福祉相談科(カウンセリングやケースワークの担当部署)などを通した無料か無料に近い低料金で利用できる心理支援の社会資源を積極活用することを指して、『社会的アプローチ』と呼ぶこともある。

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posted by ESDV Words Labo at 22:50 | TrackBack(0) | は:心理学キーワード | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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